閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

ぐるりのこと。

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しっかりもので生真面目で融通がきかないところがある妻とぼんやりとして、やさしいけれど頼りないところがある夫、どこかにありそうなこの組み合わせの夫婦の10年間を、繊細なディアローグによって丁寧に描いた夫婦ものの秀作。年月がたつにつれ人は変わるし、夫婦の関係も当然変わっていく。
夫婦の関係が徐々に築きあげられ、そしてその関係がある出来事をきっかけにバランスを崩し、破綻へと転がり落ちる。もうだめだ、というぎりぎりのところで踏ん張り、互いに苦しみながら忍耐強く関係を再び縒り合わせていく。いったん破綻しかけた関係はそんなに簡単には修復されない。ゆっくりとじわじわと、気づかないほどの遅さでしか傷は癒えない。その苦しい時期を乗り越えたあと、夫婦の関係は次のステップに移行している。
生活をともにし、そのなかで共有できる喜びを見つけていくのが夫婦関係の楽しみの一つであることはいうまでもない。しかし安定した関係が崩れ、互いにストレスをぶつけ合うような時期を耐え忍ぶこともまた、夫婦関係の大きな醍醐味ではないだろうか。もっともこれを醍醐味と感じるには、そうした時期をぐっと乗り越えなくてはならないだろうが。こんなことをじっくりと考えさせる作品だった。
主人公夫妻を中心に、妻の兄夫妻、妻の母と離別した夫という3組の夫婦関係が対照される。この核となる人物を演じた役者がことごとくすばらしい。ポツドール出身の安藤玉恵もしっかりとその存在を誇示していた。

一人でこの映画を見て、妻のことを考えた。妻と一緒に見に行かなくてよかったと思った。