閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

シークレット・サンシャイン

http://www.cinemart.co.jp/sunshine/
SECRET SUNSHINE 密陽

ロードショー公開時に見落としていた作品。主演のチョン・ドヨンはこの作品でカンヌ映画祭主演女優賞を獲得している。撮影時34歳だが、木村佳乃をちょっと童顔にしたようなコケティッシュな顔立ちの魅力的名女優だ。主演女優賞も納得の演技力と存在感だった。主人公の女性の心理の変化をニュアンスに富んだ演技によって見事に表現していた。

交通事故によって夫と死別したあと、ソウルを離れ、夫の故郷である密陽へ息子と二人で引っ越してくる未亡人の役を演じる。人目をひく美人、愛嬌のある顔立ちであるが、その言動にはエキセントリックなところがあり、ふるまいにはどこか崩れた、投げやりに感じられる倦怠感が漂っている。あまり出来のよさそうでない息子をこの母親は溺愛している。その溺愛ぶりもちょっと常軌を逸したところがある。

シークレット・サンシャイン」はこの母子が越してきた密陽という地名を英訳したものである。ややわらかい「密やかな陽光」が、映画の中で始終この女性を照らし出す。
ソン・ガンホは密林に住む38歳の独身男性。この未亡人にあからさまな恋心を抱き、まとわりつく役柄。

中盤はかなり長い時間、子供を奪われ絶望したこの母親が、キリスト教教会に救いを見出し、その活動にのめりこんでいくさまが描かれる。宗教による「癒し」の描写はとても生々しく、リアリティがある。教団のプロパガンダ映画か思ったほどだ。日本と言う「無宗教」国家で、無神論者である僕にはその様子がとてもうさんくさく、おぞましいものに感じられた。しかし信仰を持っているひとはあの場面をどのように見るのだろうか? 

イ・チャンドンはしかし安易な救いを描き出さない。主人公の女性は再びさらに深い絶望のなかに突き落とされる。何者もその絶望の淵から一気に彼女を救い出すことができない。長い年月をかけて、徐々にその悲しみが薄まっていくのを待つしかない。密陽の弱弱しい陽光はこうしたことを象徴的に示している。