- 作:河竹黙阿弥
- 補綴:小池章太郎
- 演出:中橋耕史
- 美術:熊野隆二
- 美術補:高木康夫
- 照明:寺田 義雄
- 音楽:杵屋佐之忠
- 舞台監督:枦川孝一
- 出演:河原崎國太郎、中村梅之助、嵐芳三郎、嵐圭史、藤川矢之輔
- 劇場:三宅坂 国立劇場大劇場
- 評価:☆☆☆☆
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毎年5月に行われる前進座の国立劇場大劇場での公演。前進座の歌舞伎を観るのは久しぶりのような気がする。昨年の国立劇場公演で真山青果をやっているのだけれど。中堅どころの役者が数名抜けてしまったため歌舞伎公演を打つのはしんどい状況にあると思う。女形がいない。実質、河原崎國太郎ひとりだけだ。今回の公演では河原崎國太郎の『切られお富』が通しで上演された。
『切られお富』の前に嵐広也の嵐芳三郎襲名の口上があった。七代目となる芳三郎はまだ40代前半の若い役者だ。芝居への取り組みがいかにも誠実で一所懸命な感じがして私は好感を持っている。ハンサムだし、演技に溌剌としたエネルギー、勢いがある。私がはじめて彼の存在を認識したのは『子午線の祀り』での義経役だった。平知盛を演じた野村萬斎に負けない存在感を示していた。現在の前進座の厳しい状況のなかで、父親の名前を襲名するのにはもしかして大きな葛藤があったかもしれない。座を沈みゆく泥舟と見なし捨てて出て行った仲間や先輩がいる。そんななかでまだ若い彼が父親の名前を受け継ぎ、決して明るいものではない座の将来を担う覚悟を表明しているようにも思える。応援していきたい。
『切られお富』の公演は面白かった。テクスト・レジが巧みにされ、展開にスピード感があり、ドラマの筋立てが明瞭に示されていた。お富の心理が大きく揺れ動くさまがしっかりと表現されていた。面長で意地悪顔の國太郎は、お富によく合っている。後半には華やかで楽しいスペクタクルの場面の用意され、娯楽性豊かな舞台に仕上がっていたように思う。役者はそれぞれとても達者だ。しかし上手い役者が揃ってはいるものの、国立劇場の間口の広い舞台がどこかがらんと感じられた。