閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

シスタースマイル ドミニクの歌(2009) SOEUR SOURIRE

「シスタースマイル ドミニクの歌」映画公式サイト

  • 上映時間:124分
  • 製作国:フランス/ベルギー
  • 初公開年月:2010/07/03
  • 監督:ステイン・コニンクス
  • 脚本:クリス・ヴァンデル・スタッペン、ステイン・コニンクス、アリアン・フェート
  • 撮影:イヴ・ヴァンデルメーレン
  • 美術:アルノー・ドゥ・モレロン
  • 衣装:フロランス・ショルテ、クリストフ・ピドレ
  • 編集:フィリップ・ラヴォエ
  • 音楽:ブリュノ・フォンテーヌ
  • 出演:セシル・ドゥ・フランス、サンドリーヌ・ブランク、ヤン・デクレール、ジョー・デスール、マリー・クレメール、クリス・ロメ、フィリップ・ペータース、クリステル・コルニル、ツィラ・シェルトン、ラファエル・シャルリエ、ヨハン・レイゼン
  • 映画館:シネスイッチ銀座
  • 評価:☆☆☆☆
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1960年代初めに13世紀の修道士、聖ドミニクスの功績をユーモラスで明るい曲調で歌う『ドミニクの歌』が世界的なヒットとなったものの、その後ヒット曲に恵まれず、忘れられてしまった修道女/歌手、スール・スリール(シスター・スマイル) の伝記映画。地味であるが細部まで丁寧に作られた優れた伝記映画だった。とりわけニュアンスに富む人物造形が素晴らしい。主人公を理想化したりせず、リアリティのある人物像を提示している。シスタースマイルが成功に酔い、自分を見失ってしまう場面がとてもよくできている。

作品の主な舞台はベルギーのブリュッセル。厳格で専制的な母親に反発し、牢獄のような家庭から逃れ出た彼女が選んだのは、家庭以上に窮屈で抑圧的な修道院だった。1960年代のベルギー社会、カトリックの保守的な空気に押しつぶされそうになりながら、彼女は常に自由な空気を求めようとするのだけれども、出て行った先もやはり牢獄のような不自由な世界という繰り返し。思いがけない歌での商業的成功も彼女を自由にしない。
映画のラストでは彼女は女性のパートナーとともにどこかへ旅立つ。アフリカで慈善活動を行う従妹への手紙で映画は幕を閉じる。この従妹とドミニクは姉妹のようにして一緒に育った間柄だ。アフリカ行きはシスター・スマイルの夢でもあった。若い頃、彼女は従妹と一緒にアフリカに行くことを夢見ていた。アフリカこそシスター・スマイルにとって自分を解放する希望だったのだ。彼女の願いは手紙を通してこの従妹に託されたかのようだ。
ウィキペディアを参照すると、シスター・スマイルは1985年に相棒の女性と一緒に自殺していた。敬虔なカトリックだった彼女が自殺してしまうとは。。。映画監督は従妹への手紙の場面で映画を締めくくることによって、現実には悲劇的な最後を遂げた彼女の魂に救いを与えようとした気がする。

映画のなかの彼女の姿を見て、彼女と同じベルギー人の歌手で、60年代に絶大に支持されたジャック・ブレルを私は思い浮かべた。『シスタースマイル』のなかで彼女が将来のパートナーとなる女性の家で聞いていたのはブラッサンスの《ゴリラ》だった。しかしシスター・スマイルにはブラッサンスよりもブレルのほうが重なり合う部分が多いように思う。フラマン人の保守性を嘲笑する内容である《フランデレン人女》や、カトリック学校の窮屈な学校生活を呪う《ロザ(ばら)》のような歌にはブレルのベルギー/カトリックの保守性への反発と軽蔑を感じられる。しかしブレルはそこから逃れて自由を求めつつも、最終的には自分のなかにあるベルギー性に回帰してしまう。そういったジレンマをブレルは常に抱えていたように思える。この点でシスタースマイルとブレルというのは重なり合う部分が大きいように私には思えるのだ。二人は歌によってベルギー性から解放されることを目指しつつも、結局はベルギー的な保守性から逃れ出ることができない。もしかするとだからこそ、シスター・スマイルは映画のなかでベルギー臭いブレルではなく、濃厚にフランス的なブラッサンやアメリカのプレスリーなどを好んで聴いたのかもしれない。