NODA・MAP 野田地図
NODA・MAP 第16回公演 『南へ』
- 作・演出:野田秀樹
- 美術:堀尾幸男
- 照明:小川幾雄
- 衣裳:ひびのこづえ
- 選曲・効果:高都幸男
- 作調・演奏監修:田中傳左衞門
- 振付:黒田育世
- 映像:奥秀太郎
- 出演:妻夫木聡、蒼井優、渡辺いっけい、高田聖子、チョウソンハ、黒木華、太田緑ロランス、銀粉蝶、山崎清介、藤木孝、野田秀樹
- 劇場:池袋 東京芸術劇場中ホール
- 上演時間:2時間10分
- 評価:☆☆☆☆
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野田地図の公演を観るのはたぶん三年ぶりだ。野田秀樹作品と何となく相性がよくないのだ。しかもチケット代が高い。それでこの三年ほど遠ざかっていた。彼の歌舞伎作品、特に『野田版鼠小僧』は好きなのだけれど。
今回は蒼井優ちゃんが出演するので先行抽選でチケットを予約した。最前列になればいいなと思ったのだけれど、先行抽選予約で座席は選ぶことができない。振り当てられた座席はH列ということでちょっとがっくりしたのだが、前から五列目ぐらいの悪くない位置だった。それでも今回に限っては最前列かぶりつきがよかったのだけれど。
面白かった。スピーディな展開と多層的な物語構造、卓越した演劇的創意の導入など野田演出の醍醐味を存分に素直に楽しむことができた。多様なエピソードをぎゅっと詰め込んで、それらを連鎖させる手際、物語の展開の奔放さ、強引さ、自由さがとても心地よい。鶴屋南北などの古典歌舞伎作品を連想した。選択された主題やその扱い方については賛否が分かれるかも知れない。ドタバタのファルス調の慌ただしさのなかで徐々に浮かびあがってくるのは社会的・政治的なテーマだ。民衆の気まぐれに振り回され絶望する学者の姿を書いたイプセンの『民衆の敵』や数年前に前進座が芝居にした新田次郎の小説『怒る富士』などを私は思い浮かべたが、さらにもっといろいろな題材が盛り込まれている。そしてカタルシスのない芝居であるところも好き嫌いが別れるところかも知れない。
魅力的な役者が揃っていて、それぞれの個性が生かされた配役と演出になっていた。蒼井優ちゃんは声の通りは若干悪かったけれども、野田演出をしっかりと身につけて中劇場の広い舞台でも抜群の存在感を示していた。動きとか表情の変化とか本当に素晴らしい。見ていて「きゃっ」と思わず叫び声を上げたくなるような可愛らしさだった。妻夫木聡も前に見た『キル』よりはよっぽど舞台上の振る舞いがさまになっていて、頭の良い役者だなと思った。脇役の役者の面白さ、達者な演技は言及するまでもない。