http://www.shochiku.co.jp/met/program/1112/
- 作曲:フィリップ・グラス
- 指揮:ダンテ・アンゾリーニ
- 演出:フェリム・マクダーモット&ジュリアン・クローチ
- 出演:リチャード・クロフト、ラシェル・ダーキン、キム・ジョーセフソン、アルフレッド・ウォーカー
- 上演時間:4時間8分(休憩2回)[ MET上演日 2011年11月19日 ]
- 映画館:東銀座 東劇
- 評価:☆☆☆☆☆
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音楽、脚本、演出、美術のすべてが見事に調和し、大義の道を選び取った人間の崇高さを象徴的に表現していた。しびれるような感動を味わう。充実した舞台だった。
http://met-live.blogspot.com/2011/08/blog-post_8621.html
ガンディーの南アフリカでの非暴力闘争をオペラ化した作品。私はガンディーが南アフリカに22年滞在して、現地のインド人移民への差別撤廃のための運動を行っていたことを、恥ずかしながらこの作品で初めて知った。三幕構成の作品だが、一幕と二幕の幕間に映像でガンディーの非暴力闘争についての解説があって、それではじめて事情がわかった次第。一幕目は「なんで南アフリカの話なんだろう」と思いながら見ていたのだった。
音楽については三幕の最後の曲はオルガンのバージョンで聴いていて、そのCDは私の愛聴盤の一つとなっている。グラスは同じ旋律のディテイルを微妙に変化させながら繰り返すミニマル・ミュージックの大家だが、《サティアグラハ》はその旋律の一つ一つがとても美しい。各幕では始終音楽が流れている。音型の執拗な反復のうねりにこちらの精神が取り込まれ、陶酔してしまうような感覚、高揚感を味わう。歌詞はサンスクリット語で、その翻訳は表示されない。サンスクリットの音の響きを音像として味わってほしいということらしい。ヴォカリーズのような扱いのサンスクリット語の歌詞では、古代インドの神話が歌われているという。
舞台上の物語はそのサンスクリットの歌詞とは関係なく進行していく。この発想は、先日アトリエ春風舎で見て私は受け入れることができなかった『ノマ』と重なるところがある。弁護士資格を英国で獲得したガンディーは、仕事先の南アフリカででインド系移民への差別的処遇を目の当たりした。彼は南アフリカに22年間とどまり、インド系市民の市民権獲得のための、非暴力闘争に身を捧げることになった。この22年間にあった重要な事件が3幕で表現される。各幕はガンディーの思想と深い関わりをもつ三人の人物の姿とともに象徴的に提示される。第一幕ではガンディーの思想の理論的支柱となったトルストイ、第二幕ではガンディーとほぼ同時代のインドの偉大な詩人、タゴール、第三幕ではガンディーの理念を継承し、米国で黒人の市民権獲得運動に身を捧げたキング牧師である。
新聞紙が敷き詰められた床面、とたんで覆われた背景。新聞紙やボロ布で作られた巨大な怪物たちが、合唱の後ろでうごめき、戦う。ガンディーの闘争の様子はこのように歌と視覚によって象徴的に表現される。演者たちはスローモーションのようにゆっくりゆっくりと静かに舞台を動く。ガンディー役の歌手のたたずまいもすばらしい。
第三幕の最後では、分厚い響きの感動的な合唱のあと、民衆たちから離れたガンディーが一人、舞台の中央で、アリアを歌う。その孤独の力強さと美しさの表現に心打たれる。
舞台で見ていたらどれほど感動的だっただろうか。 再映あればもう一度見に行くと思う。