閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

髪飾不思議仕掛+歌舞伎の楽しさ

前進座

  • 台本:大坂屋八甫
  • 演出:鈴木龍男
  • 装置:佐藤琢人
  • 振付:坂東鼓登治
  • 音楽:杵屋佐之義
  • 音楽監修:杵屋佐之忠
  • 出演:松浦豊和、中嶋宏幸、益城宏、新村宗二郎、柳生啓介、竹下雅臣、本村裕樹、亀井栄克
  • 劇場:吉祥寺 前進座劇場
  • 評価:☆☆☆★
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前半が「歌舞伎の楽しさ」という歌舞伎紹介のプログラム。座の中堅役者、中嶋宏幸(この人、本当に巧い)のガイドが快活で心地よい。ユーモラスで楽しい雰囲気のなかで、歌舞伎独自の演出や約束ごとが、わかりやすくまとめられていた。歌舞伎入門講座としてはとてもよくできていたと思う。

後半が新作の『髪飾不思議仕掛』。歌舞伎十八番の『毛抜き』の改作である。『毛抜き』自体わかりにくい話ではないし、特に約束事などに通じてなくても普通に見て面白い作品だと思うのだけれど、巡演先の親子劇場などの要請で作った翻案のようだ。前進座の公演では、古典落語を素材にした世話物歌舞伎風新作はここ数年いくつか見ているが、時代物の、それも歌舞伎のさらなる翻案歌舞伎というのを見るのはこれが初めてだった。正直、期待半分不安半分で観に行ったのだけれど、うーん、あんまりよくなかった。オリジナルの『毛抜き』のほうが面白いと思った。

子供も楽しめる歌舞伎ということで、「子供のためのシェイクスピア」のように「子供のためを」と口実を作ることで原作を大胆に刈り取って、斬新な解釈で現代化するが狙いだったらよかったのだけれど、歌舞伎の時代物の様式の面白さをできるだけ残しつつ、筋をわかりやすく整えるという発想の翻案だったように思えた。歌舞伎味を損ねることを恐れたのか、翻案の切れ味が乏しく、子供も対象としているというわりにはテンポが悪くて、重く感じた。個人的には前進座に関しては「くず〜い」のような世話物新作のほうが違和感なく歌舞伎を感じることができる。

一緒に観に行った小五の娘はそれでもかなり楽しんで見たようだ。『髪飾不思議仕掛』のパンフレットを枕の下に置いて寝ていた。寝る前に読んでいたらしい。見た後、特に何も言ってなかったので、つまらなかったのかと思っていたけれど、実は気に入っていたんだ。