子どものための舞台芸術創造団体の会
子どものための舞台芸術創造団体の会 ―Play For Children―
- 会場:新宿 全労済ホール/スペース・ゼロ
- 出演:ふくしまキッズ、Yen Town Fools(びり&ブッチィ−)、プレジャーB(Chang・TOPPO)、青い卵、中川美保、高坂さとし、チカパン、荒馬座
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子どものための舞台芸術創造団体の震災チャリティ公演を家族4人で見にいった。
長い団体名だが、この団体は「2011年3月11日に起きた東日本大震災により、日常生活が寸断されてしまったすべての子どもたちに向けて、生の舞台芸術を届けようと関係4団体によって結成された」そうだ。
http://www.jienkyo.or.jp/pfc2011/
今日のチャリティ公演は、この団体に所属する劇団や芸人のバラエティ・ショーで、11時開演で2時間の休憩を挟んで(そのうち一時間はロビーで一人芝居の公演あり)5時終了という長時間のものだった。全部見るのは流石に大変なので、午後2時からの公演を観た。それでも3時間休憩なし。6歳の息子は途中で集中力が切れてしまった。まあ仕方ない。
最初は福島県いわき市のダンススクールの子供たち80人による創作ダンスパフォーマンス。小さな子も混じっていたが、中心は中高生の女の子だった。40分ほどの長さだったが、変化に富んだ曲目、ダンス、衣裳を組み合わせた構成がよくできていて見ていて飽きることはなかった。演技のクオリティもかなりのものだった。一生懸命練習を重ねた上での演技であることがよく伝わってきて、思わず心打たれ、ちょっと泣いてしまった。
各演目の紹介はびりとブッチィーという二人のクラウンによるYEN TOWN FOOLsがおこなった。台詞を用いないやりとりによって次の演者の紹介を行うのだが、その紹介はクラウン芸を織り込んだものになっている。一回一回異なる趣向を用いた紹介は、短いながらそれだけでちゃんとした見世物として成立していることに感心した。
子どもたちのダンスのあとは、Chang・TOPPOというクラウン二人組の芸。巨大風船を使った芸など。観客の取り込み方が巧い。陽性な芸に客席はとても盛り上がった。クラウンYAMAとオペラ歌手の宮城摩理のユニット青い卵はほのぼのした芸風。男女ペアの他愛のない牧歌的なやりとりで笑わせる。宮城摩理の圧倒的な歌唱がショーの最初と最後を彩る。中川美保サクソフォーン・コンサートでは、ピアソラのリベルタンゴや東北の民謡などをピアノ伴奏で聞かせるもの。前後のプログラムの並び、および小さい子どもが多い客層を考えるとちょっとしんどい演目だったかもしれない。うちの下の息子はここで退屈しはじめ、ぐずぐず言い始める。
高坂さとしは「みちのくの民話」の一人語り。東北弁による暖かく豊かな語り口に聞き入っているうちに、民話の世界に入り込んでしまった。地味なしみじみ芸で大ホールにはあまり向かないジャンルかもしれないが、娘は熱心に聞き入っていた。
チカパンのパントマイムは、トリ前だった。すでに午後の部開演から2時間半近く経過し、小さい子どもの多い客席はちょっとした倦怠感が漂う感じになっていた。どちらかというと地味なパントマイム芸をこの大きな会場でどのように見せるのかなと思っていたら、チカパンは舞台ではなく客席の中から登場し、語りかけを使って観客の注意を喚起した。言葉に頼る手段はパントマイム演者としてはあまり使いたくないのかもしれないけれど、チカパンはこういう語りによる「引き込み」も上手だ。見た目もいいけれど、声と喋りにも愛嬌がある。会場の雰囲気をみて臨機応変に使い分けているのだろう。
演目は「今夜のおかず」。ストーリーは以下のようになる。
お腹のとても空いた女の子が、満月を見上げていると、その満月がとてもおいしそうに思え、それを食べたくてしかたなくなる。女の子が外に出て満月を追っかけていくと、海に行き着いた。海面でゆらぐ満月を取るために海のなかへじゃぶじゃぶ入っていくと、海のなかに沈んでしまった。クラゲや魚、海草たちの風景を楽しんでいると、溺れそうになって急いで海面に上がる。陸上に泳ぎつくと、空に向かってはしごが伸びている。はしごを上っていくと月にたどり着いた。月は両手で抱えられるくらいの大きさだった。月をむしゃむしゃ食べてしまう。食べてしまったところでちょっと後悔。すると食べたはずの月が風船のように膨らみ始めた。その月の風船につかまって、女の子はふらふらと空に飛んで行く。
チカパン流「月に憑かれたピエロ」である。オリジナルの創作だが、ピエロと月という伝統的主題が盛り込まれているところが洒落ている。荒唐無稽な話だけれど、これをチカパンがパントマイムでやると、なんともいえぬユーモラスで切ない詩情が醸し出される。海中のクラゲと海草は、会場の観客が手で表現した。こうした観客参加の趣向によって、パントマイムの荒唐無稽な世界に観客を誘い込む。会場の大きさもかかわらず、マイムの詩情に満ちたファンタジーに観客を呼び込むチカパンの手腕は見事なものだと思う。今日は演技は言葉が入り過ぎた感じだったが、それでもやっぱり世界の作り方、提示の仕方がうまい。
パントマイムとしては、オーソドックスな技ばかり使っているように見えるし、そこで提示される世界も約束事の枠内なのだけど、チカパンの「今夜のおかず」は豊かで味わい深い詩情に満ちている。寂しさと優しさと悲しさと、人がピエロに投影するあらゆる思いが凝縮されているように私は感じた。
締めは民族歌舞団、荒馬座による荒馬踊り、虎舞、ばち合わせ太鼓。お囃子の笛と太鼓の伴奏による音楽と踊りの演目で、最初の二つは東北の芸能をアレンジしたもの。虎舞は獅子舞の虎版。最後は太鼓の勇壮な合奏と踊り。
3時間ノンストップで長かったけれど、思いの外充実した内容のチャリティ公演だった。