愛人ジュリエット(1950)JULIETTE OU LA CLEF DES SONGES
- 上映時間 93分
- 製作国 フランス
- 初公開年月 1952/12/13
- 監督: マルセル・カルネ
- 撮影: アンリ・アルカン
- 音楽: ジョゼフ・コズマ
- 出演: ジェラール・フィリップ、シュザンヌ・クルーティエ
- 評価:☆☆☆☆★
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2003年にパリのオペラ・ガルニエで見たリチャード・ジョーンズ演出によるマルチヌーのオペラ《ジュリエットあるいは夢の鍵》は、私がこれまでに見たスペクタクルのなかでも最も印象深い作品だ。夢のなかで主人公のミシェルは、《忘却の村》に迷い込む。そこには彼が愛した女性ジュリエットがいた。彼はこの村でジュリエットを探し、歩き回る。この忘却の村の住民たちは過去を記憶しておくことができない。過去の不在である不安感から逃れるために、住民たちはこの村を訪ねる人たちに話を乞い、それを自らの過去の記憶としている。
マルセル・カルネ監督、ジェラール・フィリップ出演の映画版はずっと見たかったのだが、ようやく見ることができた。キリコの絵画で描かれる風景を思い起こさせる城塞、詩的で象徴的な響きの台詞が、幻想的で不安定な夢の世界を描き出し、それが実際には窃盗の罪で投獄されるミシェルの現実と対比をなしている。夢のなかでのミシェルの恋人、ジュリエットは彼が追いかけても、夏の日の逃げ水のようにすっと遠ざかってしまう。捕まえられそうで決して捕まえることができない、そのもどかしさの表現がいい。到達できない幻想の愛、理想の恋人の物語だ。
オペラ版と映画版では、話の展開が異なるように思った。ジョーンズ演出のオペラ版を見たのは15年前なので細部は覚えていないのだが、ミシェルがジュリエットと知り合ったときのエピソードがあったように思うし、夢のなかの忘却の村の彷徨がもっと強調されていたように思う。オペラ版もまた見てみたいし、ヌヴの原作版も読んでみたい。