閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

菅生歌舞伎 菅生一座秋祭り奉納公演(2019/09/28)

http://www2.tbb.t-com.ne.jp/sugao-ichiza/

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東京都西部、あきる野市の菅生歌舞伎を見に行った。二週間ほど前にネット上のニュースでこの地歌舞伎の開催を知った。

簾を使った木造舞台の写真が印象的だった。菅生の組立舞台として東京都が文化財指定しているものらしい。この舞台の実物を見てみたいと思ったのだ。

この木造舞台は明治期から続くもので公演の度に「組立舞台保存会」の「舞台師」が組み建てるそうだ。釘は使っておらず、材料は木材だけ。屋根組には竹が使われていた。実にかっこいいデザインである。

あきる野市は東京西部にあり、菅生は青梅線の小作(おざく)駅からバスで10分ほどのところにある。小作駅については興味深い町歩きレポートが記載されているブログを見つけた。

http://tobanare.com/oumesen-ozaku/

駅からのバスの本数は1時間に三本ほどある。歌舞伎は12時半開演となっていた。12時22分に小作駅西口を出るバスは満席だった。私のように歌舞伎目当ての乗客は5-6名いた。

公演案内ページには「近隣はもちろん町内には店がありません」とあったが、菅生のバス停周辺には確かに何もない。菅生学園という学校の校舎が高台で存在感を出している。組立舞台はバス停のすぐそばにあった。

地域物産の黒にんにくを売っているテントとクジラ肉ホットドックを売っている移動販売が舞台のそばにあった。クジラ肉ホットドックは珍しい。値段は二百円だった。販売している人は、かつて捕鯨船に乗っていたそうだ。スモークチキンレッグも売っていて、それも美味しそうだった。クジラ肉ホットドックの味は普通。美味しいけれど、独特の匂いがある。

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開場が12時半、開演が13時となっていた。バスが到着したのはちょうど12時半ぐらいだったが、客席は空いていた。

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舞台の実物を見ると簾を使った構造がユニークで美しい。

客席前方はゴザ敷だったが、後方にはパイプ椅子の席があり、そこも埋まっていなかった。バスツアーでの歌舞伎見学もあるらしく、パイプ椅子はバスツアー客優先のようだったが、会場案内の人に促されるままにパイプ椅子最前列に座った。公演が始まると徐々にゴザ席も埋まっていったが、最終的な観客数はおそらく70-80名くらいだった。

13時に開演で、終演は16時05分と当日パンフレットにあったが、実際に終わったのは16時20分くらい。5演目が上演されたが、その進行はかなりゆったりした感じだった。

司会の人が軽妙でうまい。あきる野市の市会議員であることがあとでわかる。市の観光事業として菅生歌舞伎をアピールしていこうという姿勢は感じ取ることができた。

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最初の演目は「喜三番叟」。この演目は秩父に伝わる三番叟で、秩父歌舞伎の上演団体から伝授されたとのこと。時間は15分ほど。演じるのは高校一年生だ。三番叟を踊り終えると、彼は客席に酒を注いで回った。

三番叟のあと、主催者挨拶があり、その後に2番目の演目、「傾城阿波の鳴門」の上演があった。母娘の二人芝居だが、母役は成人男性が演じ、娘役は小学五年の女の子が演じた。台本は説経節の経本で、三味線と語りの奏者もいる。野外舞台ということもあり、音声はマイクを使っていた。上演時間は30分ほどだったと思う。動きがない単調な芝居で少し退屈する。見せ場ではおひねりが舞台に投げられた。

演目と演目の間の転換に時間がかかる。司会役がアドリブで間を繋いでいた。「傾城阿波の鳴門」のあとは、組立舞台保存会による舞台機構の説明があり、そのあと二演目の爆笑時代劇 『水戸黄門漫遊記』の上演があった。上演時間は20分ほど。

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水戸黄門漫遊記』には、近隣の町の元町内会長と現町内会長が旅芸人一座の役で特別出演していた。この旅芸人一座に、悪者が因縁をつけた時、水戸黄門の一行が現れて解決という内容。ゆるい時事ネタや地元ネタなどが詰め込まれたいかにも村芝居らしいグダグタの身内芝居で、演者は楽しそうに演じ、観客も喜んでいた。『水戸黄門漫遊記』は菅生一座の定番演目で、長さの違ういくつかの設定のバージョンがあるとのこと。アドリブが暴走しがちで稽古や上演の度に内容が変わってしまうと司会者が言っていた。

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水戸黄門漫遊記』のあとは、七福神の大黒天が舞う大黒舞。最後の方で子供たちが会場に大量の飴や菓子をばらまく。これは10分程度だった。

最後の演目は「曽我の対面」。メイクに時間がかかって開演が10分ほど遅れた。この間を二人めの司会者が即席の手品でしのぐ。

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ゆったりとしたペースでタラタラと上演。上演時間は40分ほどだったと思う。ぎごちなさとテンポのもたつきが村芝居っぽい。カツラや衣装は全て手作りだと言う。

菅生歌舞伎の上演団体である菅生一座のメンバーは子供から大人まで70名ほどいると言う。

のどかな雰囲気の中での村芝居で、芝居があるお祭りっていいもんだなあと思う。昭和20年代には日本の至る所でこんなことをやっていたのだ。公演の規模と比べ観客の数が少ないことが残念だった。あの会場が満員だともっと盛り上がったはずだ。