閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

傾城反魂香

劇団山の手事情社

  • 構成・演出:安田雅弘
  • 照明・舞台美術:関口裕二(balance,inc.)
  • 音響:斎見浩平
  • 衣装:綾(「傾城反魂香」「道成寺」)・渡邉昌子(「道成寺」)
  • 舞台監督:本弘
  • キャスト:山本芳郎・浦弘毅・倉品淳子・山口笑美・大久保美智子・川村岳・岩淵吉能・水寄真弓・斉木和洋・植田麻里絵・文秉泰・園田 恵・三井穂高・小栗永里子・安部みはる・谷 洋介・石原石子・村田明香・鯉渕 翼・中川佐織
  • 劇場:浅草 アサヒ・アートスクエア
  • 上演時間:90分
  • 評価:☆☆☆☆★
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ルーマニアの演劇祭で今年上演し、非常に評判がよかった作品だと言う。 行くかどうか迷っていた公演だが、観に行ってよかった。

「傾城反魂香」は近松門左衛門の作品。もともとは人形浄瑠璃のための作品だが、歌舞伎の演目にもなっている。ただし今、文楽、歌舞伎で上演されるのは全三巻のうちの上巻の切りの部分、「吃又」のエピソードのみだとのこと。私は歌舞伎で「吃又」を見たことがある。 だから今回の山の手事情社版の「傾城反魂香」でもこの「吃又」の部分を上演すると思っていたら、吃又とは別の狩野派の絵師、狩野元信とその師匠の娘で遊女に身を落としたみやとの悲恋のエピソードを中心にした物語だった。

〈四畳半〉という独特の型を使った身体の動きは極めて特徴的だ。細い隙間に体を滑り込ませて出てくるような動きである。舞踊的な美しさはあるけれど、どこかグロテスクで滑稽な感じもある。常に体を滑らかに動かしつつ、擬古文的な台詞を抑揚にのせて聞かせる。
衣裳もとても印象的だった。デフォルメされた和服をベースに洋装がきっちゅにとりこまれている。色使いや布の質感がいい。

物語はいかにも歌舞伎っぽい破天荒で自由な展開で、前半は華やかで奇妙な群舞をときおり織り交ぜながら、ばらばらに思えるエピソードが羅列される。その分裂が後半、幻想的で濃厚なメロドラマへと一気に収斂される。その勢いには思わずぐっと身体が前のめりなりそうな力強さがあった。

華やかな群舞は見ていてとても楽しい。心躍る。どこかユーモラスな雰囲気もある舞台だった。今日の物語は悲劇ではあるが、最後は祝祭的な幸福感に包まれたものだった。観劇後の後味は爽快だった。