閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

2005年観劇総括

周期的に芝居を観に出かける年があるが、今年ほど多くの公演を観た年はこれまでなかった。一年で88公演に足を運んだ。そのうち歌舞伎は19公演である。第二子が誕生した秋以降観劇本数が増えている。明らかに家庭逃避が原因。妻がずっと不機嫌のため、このところあまり家にいたくないのだ。
来年は歌舞伎と子供向けの芝居の観劇本数が増えるだろう。全体の本数は50本以内に収めたい。

今年の観劇生活で印象深いものを挙げると、まずク・ナウカである。これまで食わず嫌いだったのだが、二月末のピランデッロ作品の公演(『山の巨人たち』実は『作者を探す六人の登場人物たち』)での知的な仕掛けに一気に魅了されてしまい、今年はク・ナウカの東京での全公演を観劇した。いずれも満足度の高い公演だった。来年もク・ナウカの公演には全て足を運ぶつもりだ。
歌舞伎デビューもようやく果たす。一月にシネマ歌舞伎という形で観た『野田版鼠小僧』の豊かな演劇性に魅せられ、五月の勘三郎襲名公演で歌舞伎座での舞台初観劇。その後、国立劇場の歌舞伎鑑賞教室や八月の納涼歌舞伎鑑賞を経るうちに、加速度的に歌舞伎の魅力にとりつかれてしまった一年だった。歌舞伎はまず安いチケットがあるのがありがたい。国立劇場での公演は2000円台、歌舞伎座も3階Bという安い席がある。それで4時間ほど楽しめるのだからコストパフォーマンスが高い。また現代劇に比べて、様式性が高い歌舞伎公演は、あたりはずれが少ない。好みでない公演でもそれなりには楽しむことができる。歌舞伎公演では五月の勘三郎襲名公演、八月納涼歌舞伎の『法界坊』、6月の歌舞伎鑑賞教室の『毛抜』、十一月の菊五郎劇団の『児雷也』、十二月国立劇場の『河内山』などが特に印象に残る公演だった。
坂出洋二が主宰する燐光群の公演にも今年は通った。三月に観た『屋根裏』の再演でその発想の独創性と虚構性と現実性の交錯した表現に魅力を感じ、五月の『いとこ同志』の幻想性に感嘆した。その後のいかにも本来の燐光群らしい社会派的メッセージの濃厚な作品はあまり好みではなかったのだが、今後もこのユニークで個性的なレパートリーと表現を持つ団体には注目していきたい。演出家坂出洋二は、自転車キンクリートSTORE企画のテレンス・ラティガン作品で、オーソドックスで深いテクストの読みに基づく演出も行っていて、こちらも非常に印象的だった。

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◇2005年観劇作品ベスト10
順位はつけたものの、いずれも甲乙つけがたい大きな満足感を与えてくれた作品ばかりである。

  1. 自転車キンクリートSTORE、テレンス・ラティガン三作品連続公演:坂出洋二、鈴木裕美、マキノノゾミという三者がそれぞれテクストを丁寧に読み込んだ優れた舞台を提供してくれた。ラティガン戯曲の精密な人物造型とドラマ作りのうまさを堪能する。
  2. 七瀬なつみ他、屋上庭園/動員挿話@新国立劇場(11/16):社会的敗残者の屈折した感情を、胸をえぐるような残酷さで描く好編二編の上演。
  3. ベルリナー・アンサンブル、アルトゥロ・ウィの興隆@新国立劇場(6/30):ミュラーのとんがったブレヒト解釈とマルティン・ヴトケという天才俳優の強烈なパフォーマンスの結合に圧倒される。
  4. ク・ナウカ、巷談宵宮雨@和敬塾内和楽荘(6/12):ク・ナウカの役者の軽やかな様式感が、新歌舞伎の傑作とうまくマッチしていた。和楽荘という環境の特性をうまく生かした演出も印象深い。
  5. 田中哲司他、城@新国立劇場(1/20):カフカの原作の空気を忠実に伝える演劇化に成功していた。カフカのテクストの「演劇性」を再発見させてくれた仕掛けの豊富な舞台だった。田中哲司,石村実伽の好演も印象に残っている。
  6. 渡辺美佐子他、いとこ同志@シアタートラム(5/17):虚構と現実の奇妙な交錯に惑わされる。四人の俳優がそれぞれ個性を発揮して好演。坂出演出の卓越した幻想的表現を味わうことができた。
  7. 二兎社、歌わせたい男たち@ベニサンピット(10/19):陳腐化した社会問題を、客観的に丁寧に検討し直すことで、その深層にある問題を浮かび上がらせた。しかもそれを優れたエンターテイメント作品として提示する脚本力。戸田恵子の女優的魅力が効果的に引き出されていた。
  8. 前進座、髪結新三@前進座劇場(10/18):中村梅雀の実に小気味いい悪党ぶりに引込まれる。江戸情緒を満喫できる傑作。
  9. 勘三郎他、八月納涼歌舞伎第三部『法界坊』@歌舞伎座(8/16):三幕それぞれ違った趣向で観客を楽しませる。演出も役者もサービス精神旺盛な舞台だった。
  10. ク・ナウカ、王女メデイア@東京国立博物館ク・ナウカ様式美の完成されたかたちを堪能。緊張感が持続した一時間半だった。
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2005年観劇作品一覧
【一月】3本

【二月】5本

【三月】7本

【四月】5本

【五月】4本

【六月】10本

【七月】6本

【八月】9本

【九月】6本

【十月】13本

【十一月】11本

【十二月】9本

    • 12/01:燐光群、パーマネント・ウェイ@シアタートラム
    • 12/02:青年団、砂と兵隊@こまばアゴラ劇場
    • 12/08:大竹しのぶ他、母・肝っ玉とその子供たち@新国立劇場
    • 12/14:RSC、夏の夜の夢@東京芸術劇場
    • 12/21:野田地図、贋作・罪と罰@シアターコクーン
    • 12/22:自転車キンクリートSTORE、セパレート・テーブルズ@全労済ホール
    • 12/23:円・こどもステージ、おばけリンゴ@シアターχ
    • 12/24:幸四郎他、天衣紛上野初花@国立劇場
    • 12/26:勘三郎他、十二月大歌舞伎昼の部@歌舞伎座