2010年は110本の舞台を見ていた。舞台鑑賞の数を減らすつもりだったのだけれど実際には減ってなかった。F/Tほかのフェスティバルで面白い作品が目白押しだったからこの数になるのも仕方ない。
順位をつけるのは難しいのだけれど敢えて10本選ぶと以下の通りになる。
1.ポエム・アルモニック『町人貴族』@ヴェルサイユ宮殿王室オペラ座 3月
2.ディディエ・ガラス『アルルカン、天狗に出会う』@静岡楕円堂 6月
3.OM-2『作品No.7』@日暮里サニーホール 2月
4.維新派『台湾の、灰色の牛が背伸びをしたとき』@彩の国さいたま芸術劇場 12月
5.RoMT 『ここからは山がみえる』@アトリエ春風舎 8月
6.劇団どくんご 『ただちに犬 Bitter』@木場公園特設テント 9月
7.ドイツ座『野がも』@あうるすぽっと 11月
8.マルターラー『巨大なるブッツバッハ村』@東京芸術劇場中ホール 11月
9.青年団『東京ノート(日中韓3ヵ国版)』@新国立劇場 7月
10.ノルウェー国立劇場『人民の敵』@あうるすぽっと 11月
1位のポエム・アルモニックによるモリエール『町人貴族』は圧倒的な体験であり、別格である。十七世紀、ルイ14世時代の上演形式をできるかぎり忠実に再現した舞台をヴェルサイユ宮殿にあるオペラ座で見られるなんて何という贅沢な経験だっただろう。十七世紀のスペクタクル美学の豊穣さを身体で感じることができた舞台だった。生涯ベスト5に入る観劇体験だ。ヴェルサイユでの上演は2004年にパリの劇場での上演の再演だった。この2004年の舞台公演DVDを持っている。このDVDの解説付き上映会をいつかやってみたい。ただし上演時間が三時間を超える長さがネックだ。解説、休憩を入れて全編上映すると半日つぶれてしまう。
2位以下は実質的にほとんど差がない。どれも素晴らしい公演だった。
ガラスはコメディ・デラルテの人物のひとりであるアルルカンを演じる役者。SPACの春の芸術祭で見た作品。日本語の台詞、能の物まね(非常に高レベルな)なども取り入れつつ、コメディ・デラルテの技芸を用いて、アルルカンの神話的起源から将来までに至る壮大な演劇史を演じきったことに感動した。OM-2の公演は同じ演目の改訂版が12月にも上演されたが、私は2月に見た初演版のほうが衝撃的だった。独創的で激しい身体表現の圧力によって、ことばにならない声、思いを一気に噴出させたかのような表現は圧巻だった。維新派はその造形美の洗練と音楽に魅了された。私が今年見た舞台の中では、イマージュの美しさという点では一番印象的な舞台だった。私は維新派の作り出す視覚的幻想がとても好きだ。RoMTの公演は一人芝居、日本では無名な作家の翻訳劇、そして上演時間三時間超えという極めて挑戦的、挑発的な舞台だったが、その三時間を成立させる演出上の工夫の数々、役者の技術の確かさとその表現がもたらす緊張感の持続、そして再現されるエピソードの濃密さは驚嘆すべきものだった。演劇だけが持ちうるような親密で濃厚な三時間を味わうことができた。劇団どくんごは今年初見だっが、これも実に刺激的な観劇体験だった。強烈な個性と異能の持ち主である役者たちのエネルギーが作り出す非日常がもたらす快感の強烈さに酔う。ドイツ座の『野がも』、ノルウェー国立劇場の『人民の敵』の二本はあうるすぽっとを会場にしたイプセン演劇祭の招聘作品。いずれもシンプルな舞台美術と特異な身体表現によってイプセン劇の持つ象徴性を鮮やかに抽出した舞台だった。マルターラー『巨大なるブッツバッハ村』はオペラが滅びた時代のオペラ、音楽劇のあり方を示している。独創的な舞台美術のなかで、現代世界のディスコミニュケーションの状況が歌によってシニカルな笑いによって表現されていた。『東京ノート』は平田オリザの代表作であり、彼が確立した現代口語演劇のスタイルが十全に生かされた傑作であるが、その傑作がまさにその作品に相応しい理想的な空間で再演された。新国立劇場の中劇場に向かう大階段に特設舞台が設置されその巨大な空間の特性を生かし、ちょっとした振動で崩れてしまいそうな世界の脆さが、様々なレベルの象徴的な表現の重なりのなかで描き出されていた。
この他、強く印象に残っている舞台としては
快快『インコは黒猫を探す』@シアタートラム 1月
バーバラ村田『よるべない女たち』@シアターΧ 2月
イザベル・ユペール『Un Tramway トラムウェイ』@オデオン座 3月
ゴキブリコンビナート『何も言えなくて…唖』@木場公園 6月
劇団美醜『リア王』@新国立劇場 7月
群馬県立前橋南高等学校演劇部『黒塚 Sept.』@国立劇場 8月
テレーザ・ルドヴィコ『旅とあいつとお姫さま』@座・高円寺 10月
TPT『おそるべき親たち』@東京芸術劇場小劇場 10月
文学座『ダーウィンの城』@文学座アトリエ 10月
MODE『かもめ』@あうるすぽっと 10月
ともさと衣『親指こぞう ブケッティーノ』@さいたま市ブラザノース 12月
などがある。
【2010年観劇記録】
2010/01/03 プーク人形劇場 『てぶくろを買いに/くるみ割り人形』@紀伊國屋ホール
2010/01/08 青年団 『カガクするココロ』『北限の猿』@こまばアゴラ劇場
2010/01/09 桃園会 『ぐり、ぐりっと、』@ザ・スズナリ
2010/01/13 シベリア少女鉄道スピリッツ 『キミ☆コレ 〜ワン・サイド・ラバーズ・トリビュート〜』@タイニイアリス
2010/01/21 空中カタカナ団 『オーカッサンとニコレット』@アイピット目白
2010/01/22 快快 『インコは黒猫を探す』@シアタートラム
2010/01/30 日大OB 『桜の園』@日大講堂
2010/02/08 燐光群 『アイ・アム・マイ・オウン・ワイフ』@座・高円寺
2010/02/10 バーバラ村田 『よるべない女たち』@シアターΧ
2010/02/12 OM-2 『作品No.7』@日暮里サニーホール
2010/02/13 Mustheel-Alice 『アブ・グレイブ刑務所』@タイニイアリス
2010/02/15 文楽公演 『曾根崎心中』@国立劇場小劇場
2010/02/21 くるくるシルク 『vol. 9』@スタジオPAC
2010/02/22 チェルフィッチュ 『わたしたちは無傷な別人であるのか?』@STスポット横浜
2010/03/04 指輪ホテル 『CANDIES girlish hardcre』@d-倉庫
2010/03/09 Eric Idle作 『モンティ・パイソンのスパマロット』@コメディア劇場
2010/03/10 オッフェンバック作 『パリの生活』@アントワーヌ劇場
2010/03/11 坂手洋二作 『屋根裏』@ロン=ポワン劇場
2010/03/12 イザベル・ユペール出演 『Un Tramway トラムウェイ』@オデオン座
2010/03/13 ダリオ・フォ 『滑稽な聖史劇、そして作り話』@コメディ・フランセーズ
2010/03/14 ポエム・アルモニック 『町人貴族』@王のオペラ座
2010/03/16 ヴェデキント作 『春のめざめ』@コリーヌ国立劇場
2010/03/16 岡田利規作 『三月の五日間』@ロン=ポワン劇場
2010/03/17 フィリップ・フェヌロン作 『FAUST』@オペラ・ガルニエ
2010/03/23 前進座 『木槿の咲く庭』@前進座劇場
2010/03/27 マレビトの会 『ユビュ王』@アートコンプレックス1928
2010/03/27 三浦基 『式典』@京都芸術センター
2010/04/09 二兎社 『かたりの椅子』@世田谷パブリックシアター
2010/04/11 文学座 『わが町』@全労済ホール/スペースゼロ
2010/04/29 劇団四季 『春のめざめ』@自由劇場
2010/05/01 柴幸男 『さよなら東京』@笹塚ファクトリー
2010/05/04 人形劇団プーク 『ねずみくんのチョッキ/うさぎの学校』@プーク人形劇場
2010/05/08 柴幸男 『ポンコツ車と五人の紳士』@シアタートラム
2010/05/13 燐光群 『ザ・パワー・オブ・イエス』@ザ・スズナリ
2010/05/14 チェルフィッチュ 『ホットペッパー、クーラー、そしてお別れの挨拶』@ラフォーレミュージアム原宿
2010/05/17 三条会 『失われた時を求めて:第1のコース「スワン家の方へ」』@三条会アトリエ
2010/05/21 前進座 『切られお富』ほか@国立劇場
2010/05/27 サスペンデッズ 『2010億光年』@東京芸術劇場
2010/05/30 テレーザ・ルドヴィコ 『にんぎょひめ』@世田谷パブリックシアター
2010/06/05 劇団渡辺 『四川の善人』@atelier SENTIO
2010/06/09 庭劇団ペニノ 『アンダーグラウンド』@シアタートラム
2010/06/12 快快 『SHIBAHAMA』@東京芸術劇場
2010/06/13 ゴキブリコンビナート 『何も言えなくて…唖』@木場公園特設
2010/06/14 theatre company shelf 『紙風船/葉櫻』@atelier SENTIO
2010/06/19 SPAC 『王女メデイア』@静岡 有度
2010/06/20 ディディエ・ガラス 『アルルカン、天狗に出会う』@静岡楕円堂
2010/06/20 ワジディ・ムワワッド作 『頼むから静かに死んでくれ』@静岡芸術劇場
2010/06/25 三条会 『花咲く乙女たちのかげに』@三条会アトリエ
2010/06/28 劇団昴 『スタア』@俳優座劇場
2010/06/30 柿食う客 『Wannabe』@アトリエ春風舎
2010/07/03 鳥の劇場 『異教の森の『白雪姫』』@こまばアゴラ劇場
2010/07/05 青年団 『東京ノート(日中韓3ヵ国版)』@新国立劇場
2010/07/07 四川省成都市川劇院 『川劇 「欲望の海」』@新国立劇場
2010/07/09 中国国家話劇院 『覇王歌行〜項羽、歌の翼にのる』@こまばアゴラ劇場
2010/07/10 劇団美醜 『リア王』@新国立劇場
2010/07/15 ペーター・ゲスナー 『わが友ヒットラー』@ザ・スズナリ
2010/07/16 SCOT 『シラノ・ド・ベルジュラック』@新国立劇場
2010/07/21 中村錦之介 『身替座禅』@国立劇場
2010/07/25 新国立劇場バレエ団 『しらゆき姫』@新国立劇場
2010/08/04 桃園会 『三好十郎・浮標(ブイ)』@精華小劇場
2010/08/07 DRY BONES 『オカリナ』@ウイングフィールド
2010/08/17 劇団銅鑼 『二重の不実』@銅鑼アトリエ
2010/08/21 時間堂+スミカ 『のるもの案内』@池袋のカフェ
2010/08/21 ロロ 『ボーイ・ミーツ・ガール』@王子小劇場
2010/08/21 RoMT 『ここからは山がみえる』@アトリエ春風舎
2010/08/22 RoMT 『ここからは山がみえる 〜高校生リーディング版〜』@アトリエ春風舎
2010/08/27 トム・ストパード作 『ロックンロール』@世田谷パブリックシアター
2010/08/28 群馬県立前橋南高等学校演劇部 『黒塚 Sept.』@国立劇場
2010/08/28 青森県立弘前中央高等学校演劇部 『あゆみ』@国立劇場
2010/08/29 人形劇団プーク 『ヤン助とヤン助とヤン助と/ゆうびん屋さんのお話』@プーク人形劇場
2010/08/30 シルク・ドゥ・ソレイユ 『ZED』@舞浜
2010/09/02 山の手事情社 『オイディプス王』@アサヒ・アートスクエア
2010/09/06 劇団NLT 『ペン』@俳優座劇場
2010/09/09 山の手事情社 『タイタス・アンドロニカス』@アサヒ・アートスクエア
2010/09/11 劇団どくんご 『ただちに犬 Bitter』@木場公演特設テント
2010/09/15 サンプル 『自慢の息子』@アトリエ・ヘリコプター
2010/09/16 国立劇場九月文楽公演 『鰯売恋曳網』@国立劇場小劇場
2010/09/18 燐光群 『現代能楽集 チェーホフ』@あうるすぽっと
2010/09/20 さいたまゴールド・シアター 『聖地』@彩の国芸術劇場
2010/09/29 汎マイム工房 『黙詩劇 あの青い空の波の音が聞こえるあたりに』@スタジオPAC
2010/10/03 演戯団コリペ 『屋根裏の床を掻き毟る男たち』@タイニイアリス
2010/10/05 テレーザ・ルドヴィコ 『旅とあいつとお姫さま』@座・高円寺
2010/10/07 キャラメル・ボックス 『シラノ・ド・ベルジュラック』@俳優座劇場
2010/10/09 文学座 『カラムとセフィの物語』@文学座アトリエ
2010/10/16 ピーチャムカンパニー 『口笛を吹けば嵐』@theatre iwato
2010/10/20 ロロ 『いつだって可笑しいほど誰もが誰か愛し愛されて第三小学校』@新宿眼科画廊
2010/10/25 TPT 『おそるべき親たち』@東京芸術劇場小劇場
2010/10/29 文学座 『ダーウィンの城』@文学座アトリエ
2010/10/30 MODE 『かもめ』@あうるすぽっと
2010/10/31 SPAC 『わが町』@静岡芸術劇場
2010/11/08 市川團十郎 『通し狂言 国性爺合戦』@国立劇場
2010/11/11 平田オリザ 『アンドロイド演劇 さようなら』@あうるすぽっとホワイエ
2010/11/12 寺島しのぶ 『やけたトタン屋根の上の猫』@新国立劇場小劇場
2010/11/13 ロベール・ルパージュ 『The Blue Dragon』@東京芸術劇場中ホール
2010/11/17 燐光群 『3分間の女の一生』@座・高円寺
2010/11/18 ノルウェー国立劇場 『人民の敵』@あうるすぽっと
2010/11/19 飴屋法水 『わたしのすがた』@西巣鴨周辺
2010/11/21 マルターラー 『巨大なるブッツバッハ村』@東京芸術劇場中ホール
2010/11/23 劇団競泳水着 『りんごりらっぱんつ』@サンモールスタジオ
2010/11/26 ドイツ座 『野がも』@あうるすぽっと
2010/11/27 岡崎藝術座 『古いクーラー』@シアターグリーン
2010/12/03 維新派 『台湾の、灰色の牛が背伸びをしたとき』@彩の国さいたま芸術劇場
2010/12/07 本広企画 『演劇入門』@こまばアゴラ劇場
2010/12/12 ともさと衣 『親指こぞう ブケッティーノ』@さいたま市ブラザノース
2010/12/16 北京蝶々 『あなたの部品 リライト』@ギャラリールデコ
2010/12/17 OM-2 『資本主義崩壊へのレクイエム(『作品N.7』 改訂再演)』@町屋ムーブホール
2010/12/20 SCOT 『リア王 4カ国語版』@吉祥寺シアター
2010/12/22 菊五郎、菊之助、松緑 『摂州合邦辻』『達陀』@日生劇場
2010/12/24 SCOT ディオニュソス 吉祥寺シアター