閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

書く女

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二兎社 公演

劇場はほぼ満員の盛況.まず人目をひくのが舞台美術.障子のさんをモンドリアンの絵画のように様々な大きさとかたちの四角形で構成してつくった巨大な建造物が舞台上で垂直にのびる.舞台中央から右手奥にかけて,各段が低く,幅広い木製の階段がじぐざぐにのびる.この木と紙でできた巨大なオブジェは照明の変化によって多様なイメージを描き出す.
作品は樋口一葉の評伝劇.ちらしにある寺島しのぶの表情とポーズから想像していた一葉像とは全く違うイメージの一葉像を舞台では提示されて意表をつかれた感じ.まず強調されるのは一葉の無邪気なコケットリーである.作家として成熟して行くにしたがって一葉の人物像は深みを増していく.舞台女優としての寺島しのぶを観るのは今日がはじめてだったのだが,その演劇的表現力の豊かさにすっかり魅了されてしまう.
一葉の恋人役の二流作家を演じた筒井道隆はいつもどおりの茫洋としたぼんぼん風の雰囲気をうまく生かした役作り.この人の演技はワンパターンではあるけれども,そのパターンと役柄の融合させる工夫に頭のよさを感じる.昨年夏に新橋演舞場でやった井上ひさし作の『もとの黙阿弥』で筒井は主演していたが,その舞台も観ておきたかったと今日の芝居を観て思う.
中盤以降は冗長で空疎で若干退屈を感じてしまう.正味三時間の長い芝居にも関わらず,一葉と彼女の周囲に集まった様々な男たちの心理のやりとり,恋心は,ばたばとと上滑りのまま進行し,深化した表現とはなっていないような気がした.上演時間,内容とももっと圧縮したほうが効果的であったように思う.中途半端なフェミニズム的メッセージを入れたために,作品の焦点がぼやけてしまった.物語をつくりやすい桃水との恋愛譚に焦点をあてることをあえて避けたのかもしれないが.短歌や作品の引用のやりかたもいまひとつ効果的とは思えない.