閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

列車ダイヤの話

阪田貞之(中公新書,1964年)
評価:☆☆☆☆

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マイミクの一人の絶賛ぶりにで興味を引かれ図書館から借りてきた.自身は鉄道マニアではないので普段ならまず手に取らない主題の本である.列車ダイヤといえば,ホームへの列車到着時刻の微妙な際をトリックとして用いた松本清張の『点と線』が思い浮ぶ.

綿密な計算のもと列車ダイヤを作成する「スジや」の世界をかいま見ることのできる職業入門書.ダイヤ作製上に生じうる様々な問題がわかりやすく解説されている.列車は線路上しか走ることができない,というごく当然の前提が,列車ダイヤ作成の上で生み出す制約の多さにはくらくらした.
世界最高といわれる精度を誇る日本の鉄道ダイヤが,利用頻度に比べて圧倒的に少ない鉄道資源をできるかぎり効率よく利用するという必要上,要請されたものであることを知った.列車の正確な発着というのがごく正常な自体であり,それを空気のごとくわれわれは受け止めているわけだが,この「空気化」のためにどれほど多量のプロフェッショナルの智恵と経験が投入されているかがわかり,ちょっとした感動を覚える.線路は複雑につながっているため,一つの列車の遅れがときに全体に大きな影響を及ぼすこともありうるのだ.
ダイヤ作成についての実務的な側面の問題についての解説だけでなく,大改正の際の各地の「スジや」たちが温泉旅館に一ヶ月以上泊まり込みで行う会議の様子や,遅延の際に各列車に指示をだす司令員が一刻を争うその業務上の必要性により言葉が乱暴になり,たとえば「わかりました」を「わかり」ですませ,日常生活でもそれをひきずってしまいがちだといった,時折挿入されるエピソードも面白い.

現在では高速道路網の発達や新幹線の拡張などで,昭和30年代当時の状況と比べると,列車の過密ぶりは現在では緩和されている面もあるだろし,コンピュータ化によってダイヤ作成の手順も大幅に簡略化されているかもしれないが,,列車ダイヤ改正の際の様々な利害調整の大変さ,事故などの際の列車運行正常化のための秒を争う対応など,基本的かつきわめて人間的な要素は引き継がれているのではないだろうか?