- 原 作:山本周五郎
- 脚色・演出:戌井昭人
- 音 楽:不破大輔
- 美術:笠原真志
- 照明:辻井太郎
- 衣裳:萩野緑
- 音響:高塩顕
- ドラマツルク:谷野九郎
- 演出助手:所奏
- 舞台監督:後藤恭徳
- 劇場:東池袋 あうるすぽっと
- 評価:☆☆☆☆
- 上演時間:1時間50分
- 出 演:江本純子 飯田孝男 中村彰男 金子清文 古屋隆太 宇野祥平 中島教知 伊藤麻実子 山本ロザ 池袋遥輝(子役)/坂口芳貞 ほか
-
-
-
-
-
-
-
-
- -
-
-
-
-
-
-
-
-
初めて見る戌井昭人演出作品だった。
原作は山本周五郎の連作短編小説である。私は山本周五郎をまとめて読んだ時期があるのだけれど、時代小説より現代を舞台にした小説のほうが好きな作品が多かった。『青べか物語』が好きな人は、同じスタイルで同時代を舞台にして書いた『季節のない街』も好きだと思う。戌井昭人もそうだとのこと。
『季節のない街』は、トタン板のバラックの家が密集する貧しい都市集落のありようを描いた群像劇だ。黒澤明が『どですかでん』というタイトルで映画化している。「どですかでん」と言いながら一人で鉄道ごっこに興じる知的障碍の青年を、中心に置いている。戌井の作品は、この黒澤の映画の世界を舞台化したような趣の作品となっていた。
いくつもの短いエピソードが連なるが、それらのエピソードは「どですかでん」と言いながら舞台を何度も横切る知的障碍の青年によって区切られる。
貧民街のみじめさをペーソスとともに描き出した作品ではあるが、山本周五郎は貧しき人たちの愚かさ、小ずるさも容赦なく描き出す。戌井の舞台でも、物乞いの親子の痛切なエピソードによってこの泥沼のような貧民街の無残な生活を象徴的に提示する一方で、明日の見えない日々のなかで、自堕落で刹那的な生き方に溺れる貧しき人たちの愚かさ、ずるさも滑稽に表現されていた。
舞台美術が素晴らしい。それぞれ建物ごとに異なる色合いで塗り分けられた見た目も洒落ていて可愛らしいのだが、舞台上にひしめき合うこの6軒のバラック小屋は可動式になっているのだ。中世イギリスの山車舞台のように、エピソードごとに舞台上をこれらの小屋が移動して、各人物のエピソードをクローズアップする仕掛けになった。
短いエピソードが次々と展開するが、展開はたるい。物語は前に進まず、ひたすら出口のないままぐるぐると円環しているように思える。クラリネットと金管のふやけた音色の音楽が、舞台上の物語の倦怠感、やるせなさをさらに強調する。しかしこの停滞感は快感でもある。生ぬるい地獄のような日常がもたらす倦怠感にはある種の快楽があって、見ているうちにだんだんとその弛緩した甘美な空気に浸ってしまった。
ちょっと奇抜な仕掛けを使った細かいギャグもセンスがいい。大爆笑を巻き起こすわけではないけれども、生きていくことの間抜けさのようなものがギャグによってうまく強調されていた。
役者では文学座の中村彰男が印象に残る。
この作品のレビューは劇評サイト、ワンダーランドに投稿した。リンク先参照のこと。
http://www.wonderlands.jp/archives/21828/