閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

ムネモパーク Mnemopark - A Mini TRAIN World

シュテファン・ケーギ Stefan Kaegi (リミニ・プロトコルRimini Protokoll)
http://tif.anj.or.jp/mnemo/index.html
東京国際芸術祭2008

  • 構成・演出:シュテファン・ケーギ Stefan Kaegi (Rimini Protokoll) [スイス]
  • 映像:マーク・ユングライトマイアー Marc Jungreithmeier,ジャンヌ・ルフェナハト Jeanne Rufenachat
  • 音響:ニキ・ニーケ Niki Neecke
  • 照明:ミナ・ヒキーラ Minna Heikkila
  • 製作:バーゼル劇場(スイス) Theater Basel
  • 字幕:幕内覚(Zimakuプラス)
  • 翻訳:田原奈穂子
  • 出演:ラヘル・フバッハー,マックス・クルス,ヘルマン・レール,ハイジ・ルーデヴィッヒ,ルネ・ミューレターラー
  • 劇場:にしすがも創造舎
  • 上演時間:1時間30分
  • 満足度:☆☆☆☆★
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東京国際芸術祭の招聘企画の一つ.シュテファン・ケーギはドイツ語圏スイスの演劇人で,アートプロジェクト・ユニットであるリミニ・プロトコル Rimini Protokoll (http://www.rimini-protokoll.de/)のメンバーの一人.リミニ・プロトコルには他にヘルガルド・ハウグHelgard Haug,ダニエル・ヴェッツエルDaniel Wetzelというメンバーがいる.


極めて独創的なアイディアに基づくユニークなスペクタクルだった.一貫性の物語を提示するタイプの「演劇」ではなく,映像とともに断片的なエピソードをリアルタイムでコラージュのようなかたちで提示する複合的パフォーマンスである.タイトルからわかるように主題は「記憶」である.
出演者五名は,一名を除き,演劇経験のない素人,バーゼル鉄道模型クラブに所属する老人四名である.幅14,5メートル,奥行き7,8ほどの舞台には,胸の高さほどの細長い台の上に精巧な鉄道模型ジオラマが組まれている.1/87スケールの鉄道模型がそのジオラマを走る.
舞台背景にはスクリーンが設置され,そこには鉄道模型に付けられた小型カメラの映像,演者たちの手持ちカメラの映像がリアルタイムで映し出される他,あらかじめ取材・録画された映像が時折挿入される.

五人の演者のうち,唯一のプロの女優(といってもかなりやぼったい感じの女性なのだが)が中央奥に位置し,彼女が司会進行役をつとめ,スペクタクルの流れを制御する.一応核となる筋はあるようだ.五人の演者が協同してこのジオラマ・セットを使って「インド映画」を撮影する,といったもの.しかしこの主筋(?)ははなはだ曖昧で,断片的な形でしか提示されない.現代スイスの農業・酪農状況,インド・パキスタン情勢,そして演者各自の個人的な記憶のエピソードが脈絡なく挿入され,個人,国,世界の「記憶」の断片が,列車模型の進行に合わせて混とんとした状況で語られるのだ.この列車模型の運行は,時間の進行のアナロジーとなっているのだろうが,この運行自体もしばしば「脱線事故」によって中断される.さらに上演中に三回,ゲーム・タイムがあり,演者の中でゲームが行われる.ゲームの勝者は「フラッシュ・バック」を獲得する.一定時間自分が好きな過去を追体験できるのだ.しかしこの「フラッシュ・バック」の最中にまた自己が起こったりすることもある.

「記憶」のあやふやさと混乱が,ユーモラスに鉄道模型の運行とジオラマの映像を通して再現されているような気がした.とにかく楽しい趣向に満ちた極めて奇妙で実験的なスペクタクルであることは間違いない.実況中継風の演出の中で,あたかも「不思議な国のアリス」あるいは「ガリバー旅行記」の世界に入り込んだような不思議な感覚を味わうことのできるスペクタクルだった.ちょっと他では味わえない面白さ.
月曜日まで.