閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

プレステージ

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自分の人生の隅々まで演出することで、己の存在意義を確認せざるをえない奇術師の業を描いた作品であるように僕は思った。
奇術師の化かし合いをドラマのアクションに結びつける展開はとてもうまい。展開の伏線やサスペンスの提示の仕方の名人芸に、映画の世界にぐいぐい引き込まれてしまった。再現された19世紀末の都市景観も独自の陰影があり、ドラマの興趣をもり立てる。
しかし原作者のクリストファー・プリーストの作家としての特性を忘れていた。ついこの間、彼の作品を読んだばかりというのに。
正直、トリックについては見終わった時点では理解しきれておらず、ドラマは存分に楽しんだものの釈然としないものが残ったのだ。

あの設定自体がちゃんとドラマの中で伏線として提示されていたとはいえ、あの話の作り方で異なる次元の仕掛けを突然織り込むという荒技は、僕にはかなり不満で、興ざめしてしまった。もっとすっきり」だまされたかったなぁ、と思う。
以下はネタバレを含む。


この映画は僕が普段かなり信頼を置いているブロガーやマイミクが大絶賛をしていた作品だ。彼らはこの映画のSF的オチもふくめ、映画でとりいれられていた仕掛け全体を評価していたのだ。僕もこの映画は大変面白く見た。様々な伏線を見逃すまいとかなり集中して観た。しかしあまりにマジメに見てしまったために、とんでもない誤解をしてしまい、その誤解は帰宅してネタバレ系のサイトを見る前にはとけなかったのである。ネタがわかったときは、自分のとんちんかんな誤解に思わず赤面すると、同時に映画全般について失望、面白さが一気に興ざめしてしまう。あのオチはないだろう、と。あれを受けいられるかどうかがまさにこの映画を楽しめるかどうかの大きなポイントであることはわかるけれど。ルール違反のような気がしないでもないが、それでも映画の中で伏線は何度も提示されていたのだし。
しかしリアリティあるどっしりとした人間ドラマを見せておいて、あのSFオチで解決というのはやはり愉快でない。あの人体コピー装置については、僕は映画を見ているときは、静電気実験を繰り返していたマッドサイエンティストがペテンをかけようとしていたのだと信じていたのだ。つまりコピー装置、人体転送装置なんてあり得るわけがない。19世紀末の時代において、テクノロジー万能のような幻想がまだあったので、あの奇術師はナイーブにもだまされてしまったのだ、と思ったのだ。そしてライバル役の奇術師は、常に一枚上手で、そうした相手のナイーブさを見透かしているように思えた。
双子のトリックは、十分に可能に覚える。しかし人体コピーや転送については、全くのファンタジーである。あくまでリアリティのあるドラマといった枠組みで話を展開させながら、話の根幹に関わるトリックにSFや夢オチで解決されたら、うーん、少なくとも僕はがっかりしてしまった。こうしたミスリードの仕方はずるいと思ってしまうし、丁寧に作ってきたそれまでの展開のリアリティを一気に破壊してしまう。
この仕掛けを含めて楽しめるかというと、僕にはどうやらそうした柔軟な感性はなかったということだ。悔しいけれど、うーん。面白い作品であったが、この仕掛けゆえに後味のよくないドラマでもあった。