閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

舞台は夢:イリュージョン・コミック

http://www.nntt.jac.go.jp/season/updata/20000063_play.html

17世紀、古典主義時代のフランスを代表する劇作家であるコルネイユの喜劇。
モリエールラシーヌに比べると、日本では上演機会がほとんどない劇作家だけれども、フランス人ならみな知っている大劇作家だ。フランスでは今でもかなり頻繁に彼の作品は上演されている。コルネイユの初期作品、彼の代表作である『ル・シッド』以前はバロック演劇的な要素が含まれている。『舞台は夢』も魔法、劇中劇、殺人などのバロック劇的要素を含む。

父親の厳しさゆえに出奔してしまった息子の様子を知るために、父親が洞窟に住む魔術師のもとを訪れる。魔術師は父親に、出奔後の息子の生活を「亡霊」たちを使って映し出す。そこでは巧みな話術によって貴族社会のなかで成り上がろうとする女たらしの息子の生き様が映し出されていた。しかし不倫、決闘、殺人などの事件にまきこまれ、息子は最後には魔術師が映し出した幻影のなかで、殺され、死んでしまう。父親が息子の死を嘆くと、また別の場面が映し出される。さくほど息子を殺した人間たち、舞台上で死んでしまったはずの人間たちが「生き返って」、金勘定をしているではないか。実は息子は役者になっていて、先ほどの残酷な場面はその芝居の中の一番であることが明らかにされる。そして息子は役者生活を謳歌している。役者生活の賛美で幕。

17世紀の芝居だが、今回の公演では潤沢な予算を使い、洗練された抽象的な美術と地力のある役者をそろえることで、古臭さをあまり感じさせないモダンな雰囲気の喜劇に仕上がっていたように思う。照明がずっと暗めだったので、前半けっこう眠ってしまったけれど。役者のなかでは高田聖子がとりわけその持ち味をこの芝居でも発揮し、ドラマを活気あるものにしていたように思った。
魔術師と劇中劇のなかのほら吹き隊長を同一の役者(段田安則)に演じさせ、演劇的イリュージョンを魔術と重ね合わせるアイディアや、円形のセンターステージの中央の穴からむくむくと登場人物が現れる仕掛けがとても面白い。2時間でまとめるスピーディな展開もよかった。
ただし堤、段田の個性は、このドラマのなかで効果的に生かされていたようには僕は思わなかった。
無駄をそぎ落としたスマートな喜劇ではあったが、バロック劇的な破綻を感じさせるようなエネルギー、過剰さが感じられなかったことを、少々物足りなく思う。