閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

家族の肖像

サンプル
http://www.samplenet.org/yotei.htm

  • 作・演出:松井周
  • 美術:杉山至+鴉屋
  • 照明:西本彩
  • 衣装:小松陽佳留
  • 出演:辻美奈子(サンプル・青年団)、古舘寛治(サンプル・青年団)、古屋隆太(サンプル・青年団)

羽場 睦子、木引優子(青年団)
江原大介、岡部たかし、中川鳶、成田亜佑美、西田麻耶(五反田団)、 野津あおい、
村上聡一(中野成樹+フランケンズ)

  • 劇場:五反田 アトリエヘリコプター
  • 上演時間:1時間50分
  • 評価:☆☆☆☆
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客席と舞台の構造がとてもユニークだった。高さ胃.5メートルほどの舞台を四角く取り囲む枠の上に客席が設置されている。上から足元を覗き込むかたちで観客は役者たちの演技を見る。天井裏にひそんで他人の生活を覗き見するような感じ。
舞台上にはゴミが散乱し雑然としている。このゴミだらけの床の舞台は登場人物たちのおりなす人間関係の荒廃ぶりの暗喩となっている。無秩序に上から垂れ下がるさまざまな形態の白熱球が頼りなげに足元の舞台を映し出す。
あまりはやっている様子のないとあるスーパーで働く少々エキセントリックな人たちのそれぞれの家族模様が断片的に、互いのエピソードの脈絡が不明確なまま、提示される。5分ほどの場面が、別の人物の介入によって、別の場面へと突然移行する。各エピソードはジグゾーパズルのピースのように、はじめは無秩序に提示されるが、何回か繰り返されるスーパーでのミーティング場面で主要人物が集合するたびに、だんだんその位置関係が明瞭になっていく。
上演時間は2時間弱だったが、この展開の脈絡のなさゆえ、各エピソードのなかにはこちらを爆笑させるような場面はいくつかあったけれども、最初の一時間は冗長さを感じた。この構造自体が、家族というものを皮肉にとらえる作品全体の内容を、表象するものになってる。基調となるのはコミュニケーションの微妙な齟齬を重ねることで生じるおかしみだと思う。ただし松井作品の場合、そのユーモアは常に性的なものと結びつき、その性の描かれ方は変態的かつ露悪的だ。性的で諧謔的なナンセンスな劇詩のような味わいの作品だと思った。

いくつかの場面のギャグのアイディアに爆笑し、とても楽しむことができた舞台だった。ただ全体的には作品自体に閉じているような印象を持ち、そこに物足りなさも感じる。ある意味で世界が自己完結していて、発展性に乏しいように僕には思えた。こういった世界が好きな人たちにのみむけられたマニアックで隠微な世界。松井ワールドとしては技法的な洗練が進み、完成されているけれども、すでにある種の予定調和とマンネリズムが漂っているように思えた。