東京デスロック
http://deathlock.specters.net/
- 作:三好十郎
- 演出:多田淳之介
- 照明:岩城保
- 出演:夏目慎也、佐山和泉、猪俣俊明、山村崇子、佐藤誠、村上聡一、柾矢かおる、桜町元、ほか。
- 劇場:こまばアゴラ劇場
- 上演時間:3時間(休憩10分)
- 評価:☆☆☆★
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休憩10分込みで3時間弱の長い舞台。通常のデスロック公演の倍ないし三倍の公演時間だ。著作権保有者からテクストのカットを禁じられのだろうか。前半何回かうとうとしてしまったところがあったが、変化と工夫に富んだ舞台だったためか、冗長さは感じなかった。
東京デスロックの公演だけに、原作に強烈なデフォルメが加えられるのは必至と思い、事前に原作を読んで「予習」しておいた。デフォルメの具合を楽しみたかったからである。戯曲は以下のような内容だった。
キリスト教徒の青年が聖書に書かれている教えに誠実であろうとして、徴兵を忌避し、そのため官憲から迫害を受ける。彼の素朴で一徹な信仰のあり方は、彼の周囲の人間、とりわけ彼を信仰に導いた牧師に大きな衝撃を与える。彼は「正しい人間の正しい行い」を目にしたために、地獄に落ち、そのなかでもがき苦しむことになる。戦中-戦後の価値観の激変のなかにあっても、愚直に神への信仰を貫く「聖者」の存在が、われわれが日常的に隠蔽し、糊塗ようとしている倫理的堕落の醜悪さを明るみに出す。
台詞によって状況や心理がすべて細やかに語られることばが優位の戯曲だった。誠実で愚直な信仰に伴う聖性が、普通の弱き人々を激しく苛むという逆説を戦前ー戦後の世相を背景に表現する感動的な戯曲だった。
オリジナル・テクストに対する演出家の向き合い方についてちょっと判断しかねるところがある。
生真面目なひとをちゃかしてからかって遊んでいるように思えるようなところもあるし、あるいは一見破壊的に見えても演出家なりのオリジナルに対する誠実なオマージュのように思えるところもあるし。
テクストは、デスロックの演出家の多田氏にとって自己のきわめて独創的な演出的仕掛けを顕示するための、素材に過ぎないよう見える、という印象はぬぐいさることができない。
いくつかのとても好きな場面がある。とりわけ第二幕、戦後の教会でのクリスマスの飾りつけの場面にはひきつけられた。ただ全般的には、演劇的仕掛けの奇抜さとオリジナル・テクストのメッセージの齟齬が有機的な関係を生み出しているとは僕は思えなかった。いくつかの演劇的創意はとても新鮮で強烈に感覚に訴えかけるが、そのインパクトはオリジナル・テクストの持つ内容の豊かさを引き出すものであるようには思えなかった。むしろ仕掛けの数々がテクストの表層で派手に炸裂することで、テクストのメッセージは希薄で平板なものになっているように感じられた。