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閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

アンダーグラウンド(1995)

アンダーグラウンド UNDERGROUND

 

評価:☆☆☆☆☆

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日本でロードショー公開時に見た。ナチスドイツ占領下のユーゴスラビアから映画製作当時のユーゴ紛争までの現代史をたどる。とにかく破天荒な人物たちによる破天荒な擬似現代史の物語だった。ブラスバンドによるジプシー風音楽の印象も強烈だった。

恵比寿ガーデンシネマでは1月中旬からクストリッツァの回顧上映をやっていて、20年前に見たこの作品の他、少なくとも『黒猫・白猫』、『ジプシーのとき』、『ライフ・イズ・ミラクル』は見たいと思っていたのだが、恵比寿が自分の普段の行動範囲から外れているし、何かと予定が詰まっていたりして、結局最終日の最終上映の『アンダーグラウンド』だけを見ることができた。

今さら私がここで書くまでもないが、これは超傑作だ。音楽、映像、言葉のアンサンブルが濃厚な詩的驚異を作り出している。主人公の一人、クロが何か行動するたびにブラスバンドがバックミュージックを演奏するというアイディアのばかばかしさは天才的だ。音楽映画として私が見た映画のなかでは最高の部類だ。映画のドラマツルギーのなかで音楽がしっかりと組み込まれていた。

とにかくずっと騒がしくて狂っていてこちらを引き込むようなのりがある。3時間近い長さだが退屈を感じない。俳優たちの個性も強烈だ。マルコとクロの無頼ぶり、そしてナタリアの軽薄さ、エゴイズム、そしてその享楽性ゆえに圧倒的な美しさ。映像の絵の美しさも見事だった。第三部で殺害されたマルコとナタリアの死体が、戦火のなか、燃えさかる電動車椅子に乗ったままぐるぐると円を描く場面はとりわけ鮮烈だった。他にも思わずあっと声を上げそうになる美しい場面がいくつかあった。

1995年に見たときも衝撃的だったが、今回の見たほうがより衝撃は大きく、感動も深まったのは、2000年以降、フランスでの教員研修でアルバニアボスニアセルビアマケドニアの教員たちと知り合い、そのうちの幾人かとはFacebookを通じて交流が続いているからだ。1995年はユーゴ紛争のさなかでその悲惨は報道やルポルタージュで伝えられていたものの、当時の私には自分とは関係ない遠い国の出来事で、その原因や状況についてはあまり興味を持っていなかった。今はバルカン半島地域で生まれ育ったフランス語教員数名と知己を得て、彼ら・彼女たちが経験してきた凄まじい歴史を『アンダーグラウンド』を通して想像せずにはいられない。