閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

殺人の追憶

1986年,まだ韓国で夜間外出が禁止されていた時代に農村で起こった連続強姦殺人事件の捜査をめぐる物語.この事件は結局解決されないまま現在に至る.
脚本がすばらしくいい.ソウルから来たエリート刑事と田舎刑事の対立,観客の関心を常に引き続ける変化に満ちた展開,物語の背後にある陰鬱な社会背景の暗示が巧みになされている.犯人の提示という安易なカタルシスを敢て廃し,犯人は不気味に刑事達の周囲でその気配を漂わしているだけ.オープニングとエンディングが同じ場所で,しかも無邪気な子供の視点をからめる.この二つのシーンがしびれるほどうまい.
水田の広がる風景の映像も美しい.夜と雨のシーンが中盤続くので,ラストの田園シーンはなおさら解放感に満ちている.その解放感は必ずしも爽快なものではなく,苦味を伴うものなのだが.
韓国の大スター,ソン・ガンホの存在感は圧倒的.『オールド・ボーイ』のチェ・ミンスクもそうだが,重厚で圧倒的な存在感を感じさせる俳優.この決して「娯楽」作とは言い難い作品が大ヒットするとは,韓国の観客の民度の高さはすごい.映画芸術の持っている重みというのが日本よりもはるかに大きいことを想像させる.