松尾スズキ(光文社知恵の森文庫,2005年)
評価:☆☆☆
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対談集だがその相手が庵野秀明,天久聖一,根本敬,鶴見済とネガティブな方向で濃厚な人ばかり.単行本版は1999年に情報センター出版局から出ているが,単行本には収録されている町田康との対談が文庫本版では「大人の事情」で欠落.ずるずるとだらしなく会話が流れているところまで収録しているのがいかにもこの人選の雰囲気を示しているように思う.
ここでの松尾の対談相手は,僕が多かれ少なかれ一時期集中的に読んだ書き手.え・ぁんげりおんの庵野には,アニメに対して根本的におタク的な関心を持てないので,エヴァ騒ぎに関しては外からの傍観者というかたちだったが.表現者として高く評価していて一時期かなり影響を受けていた根本敬との対談がやはり一番興味深かった.人間「性ナサケナイモノ説」に基づく根本独自の観察力とグロテスクな描写力について,中野翠は一部共感を示しつつも,「そこで根本に観察される人間はやはり根本的に苦しんでいるように思える」という優等生的理由で拒否していた.僕自身も根本の著作には強烈に惹かれつつも,彼の確信犯的なそして徹底した「芸術」至上主義を完全には受け入れらないことに気付いていた.自分にはかなり希薄であるように思ってきた市民道徳意識のようなものを,根本の著作の嘲弄精神は根本から揺さぶるのである.いや根本の露悪趣味に対する拒否感は、彼が嘲弄する存在が人間の欲望の原点を顕わにした人々であり、つまるところその情けなさに自分自身の生身の姿の投影を見て取ってしまうからだろう。彼岸の観察される人々は私自身のおぞましさでもあるのだ。
庵野はともかく,天久,根本,鶴見の三氏と比べると,松尾は圧倒的に市民社会の人間であることが明らかになってしまう対談.