閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

奴婢訓

作・演出:寺山修司
演出・音楽:J・A・シーザー
美術・衣裳:小竹信節
照明:松本昭宏
出演:旺なつき,能美健志,蘭妖子,サルバドール・タリ,井内俊一,小林桂太,小林拓
劇場:北千住 Theatre 1010
評価:☆☆☆☆

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寺山様式美の世界を堪能する.主人不在の館の中で奴隷たちがそれぞれ行う「ご主人様ごっこ」を舞台化したグロテスクな幻想音楽劇.広い舞台空間を最大限利用した舞台装置,舞踏で,寺山的なキッチュでおどろおどろしい夢幻劇に観客をひきこむ.前半は物語が希薄なイマージュの断片を併置された舞台で表現される「様式美」のバリエーションに若干の飽きと退屈を感じたが,次第次第に引き込まれる.暗闇の中,各役者が矢継ぎ早にマッチを擦りながら台詞と舞踏を見せるシーンの美しさが特に印象に残る.大根をひたすらかじる女性のハツカネズミ二匹が入ったメッシュの衣裳など,衣裳もグロテスクなイメージ豊かで愉しめる.複合的要素がうまくからみあった寺山流オペラ.
音楽と舞踏を中心とするスペクタクルが魅力の舞台で,視覚的美しさと完成された様式性ゆえに海外での公演が多かったこともうなづける.

北千住のこの劇場ははじめて.駅前の百貨店の上階にある800人ほどの規模の新しい劇場.舞台空間も客席もゆったりと設計されているバランスのよい劇場だと思った.駅からすぐなのも便利.
今日の客入りは9割.かなりよい反応を感じていたが,客席の拍手にもカーテンコールがなく,最後の最後まで様式性にこだわった舞台だった.よくできたエンターテイメントであり公演の満足度も高かっただけに,「お約束」を排した制作の筋の通し方は理解できるもののやはり物足りない感じは残る.祝祭的雰囲気に満ちた舞台だっただけによけいそう感じたのかもしれないが.