関川夏央(集英社文庫,2005年)
評価:☆☆☆☆
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50間近の年齢になった著者が,自身の思春期から青年期に関わった書籍,ラジオ,映画などの「物語」の記憶から当時の空気を描き出すエッセイ集.この著者の自身の過去への回想は,過去を美化することへの含羞と抵抗感ゆえ,常に皮肉な苦みをともなっている.
文体の気障ったらしさともってまわった自己肯定の表明によって,この著者は意識的に読者との間に距離感を築こうとしているようである.
『ひょっこりひょうたん島』のドン・ガバチョの時代的「ヒューマニズム」に言及した章とフェリー二のセンチメンタルな傑作『道』にまつわる思い出について書いた最終章が印象的だった.山本七平の再評価の章も,僕自身が高校時代かなりの「本多信者」だったために,非常に興味深かった.
最終章で引用され,著者自身も好きだと言うフェリーニのことばが心に残る.
「私は嘘つきだが誠実な人間だ」
ぼく自身も自分がそうでありたいと思うような人間像が簡潔に示されているようで、自己の存在が肯定されたような気分になる。