閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

エレニの旅

http://bowjapan.com/eleni/

  • 場所:日比谷 シャンテシネ
  • 評価:☆☆☆☆
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観れば必ず睡魔に襲われながらも,途中から画面に釘付けになるアンゲロプロスの映画.今回は『永遠と一日』以来6年ぶりの新作.やはり前半,猛烈な睡魔に襲われる.物語は非常にシンプル.1919年,ロシアから追われギリシャに戻った難民の一族.その中に幼い男の子と女の子がいる.二人は兄妹ではない.この二人が後に愛し合うことになるのだが,彼らの愛は民族や時代の不条理の脅威におびえての逃亡と別離の悲劇的結末をたどる.主人公のエレニの旅は,個人の努力ではどうにも抗しようのない時代や社会の残酷な不条理からひたすらおびえながら逃亡を続ける旅だった.そしてその旅の終着点は彼女を不幸から解放してはくれない.
とにかく印象的な美しい画面が多い映画だった.冒頭の川縁にロシアからの難民の集団が黒ずくめの服装で固まりつつ進んでくるシーン.川辺の荒涼とした風景の中に立ち並ぶ家屋,寒々とした移民村の風景.長老の葬儀のシーン.そして長老宅の葉の落ちた木に屠られた羊が何頭もぶら下がるシーン.移民の村が集中豪雨で水没してしまうシーン.オペラ座に住まう難民たち,ろうそくの照明の中,エレニを連れ戻しにやってきた長老が慟哭するシーン.思わずはぁーとため息が漏れるような緊張感に満ちた静謐な映像に圧倒される.とにかく叙情にあふれるきわめつけの美しく力強いシーンの数々にしびれるような感動を覚える.
物語はうーんシンプルすぎるし,やはり今作は物語内容を考えるといくらアンゲロプロスの作品とはいえ冗長すぎるような気がする.それでも最後の一時間はエレニに感情移入してしまい画面に釘付けでストーリーを追っていたのだが.思わず号泣するものの,希望の持てないあまりにもつきはなした叙事詩的結末の作り方には不満を感じる.