閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

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Queenの曲ばかりを使ったミュージカルがロンドンで大ヒットしているという記事は昨年の秋頃に目にしていて,Queenを生で体験した最後の世代にひっかかっている僕は大いに好奇心をかき立てられた.生まれて初めて自分の意志で行ったコンサートが1982年秋のクイーンの西宮球場でのコンサートだったはずだ.ベストヒットUSAに夢中になりはじめていたころで,この初コンサート,僕は丸刈りの中学二年生だったが,は強烈な経験だった.
3月のチケット販売開始と同時に購入する.東京公演は3ヶ月の長期にわたり,それも新宿コマ劇場ということで,この強気の興行に,果たしてお客が埋まるモノなのかなぁとちょっと首をかしげた.
僕が行ったのは平日マチネの公演.商業的なあざとい仕掛けが露骨に感じられる品のないディスプレイに悪い予感を覚える.Queenというバンドのポピュラリティを考えるとしかたないかもしれないけれど.客の入りは6割から7割といったところ.後部座席は空席が目立つ.チケットもSが12000円,Aが9000円とかなり強気の設定なのだ.後半僕は前のほうの座席に移動する.
ミュージカルとしては脚本は魅力に乏しく,演出も荒い.Queenの曲の使い方も不満が残るものだった.ローカルギャグなども入れるなど工夫はされていたけれど,『1984年』ばりの近未来の超管理社会の中で自由を求める人間という設定は陳腐すぎてお話にならない.結末のあいまいさや筋の弛緩もふくめ,雑な脚本だった.舞台美術も工夫にとぼしくおざなり.定型的表現にとどまっていて,照明もクイーンのコンサートのほうがよっぽどダイナミックであったように思える.劇団新感線のいのうえかずのりがもしこの舞台を演出していたら,はるかに充実したものになっただろうになぁ,などと舞台を見ながら考える.
コンサートののりとミュージカルの舞台ののりとどちらを期待してみるべきか,最初とまどった.舞台の最後の最後になって,筋を破綻させたまま,ネオ・クイーンのコンサート状態になってようやく観客にものりがでてくる.やはり音楽主体の演出にすべきであり,脚本ももっと曲をのせるための枠組みとして徹底すべきだったのだ.つまらない脚本のために,欲求不満の状況が長引いてしまった.
キャストの歌はさすがにうまい.もっともこのミュージカルで歌が未熟だったら魅力はゼロになのだが.ただしQueen世代の人間はどうしてもあのフレディの圧倒的なパフォーマンスと力強い歌唱を思い浮かべてしまうだろう.フレディ・マーキュリーのパフォーマーとしてすごさを改めて思い知らされる.
未熟で雑な脚本にもかかわらず,曲のよさゆえに退屈は感じないし,舞台の進行につれ涙が出そうになる.途中で気づいた.この舞台の観客には,クイーンの曲をライブで聴くという状況のなかで,かつてのクイーンのステージの記憶を反芻させているのと同時に,かつての若い自分,とりもどすことのできない過去のノスタルジーを味わっている観客がたくさんいることを.僕もその一人である.クイーンの曲を生で聴くことで中学・高校のころの濃厚な時間感覚をとりもどすような感じを味わうことができた.
ミュージカルとしては駄作ではあるが,かつてQueenの音楽を青春時代に聴いた人はそれなりに楽しめる舞台になっている.しかしできることならばこの作品は満員のロンドンのステージで体験したかった.空席の目立つコマ劇場では,十全に楽しむには温度が低すぎる.