閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

『近代能楽集』より「卒塔婆小町」「弱法師」

http://www.horipro.co.jp/ticket/kouen.cgi?Detail=53

蜷川演出の舞台を見るのはこれがはじめて.派手で大仕掛けそうな雰囲気ゆえ何となく敬遠したのだ.本公演は再演でその演出には定評のあるもの.戯曲も非常に好きな作品なのでこれを機会にと思いチケットを購入する.ホリプロの藤原竜也の人気ゆえか観客は女性が9割.客の入りも9割でちらほらと空席が残る.
「卒塔婆小町」は傑作だった.原作の一見散文的な言葉の連鎖の奥にある豊穣な詩情が達者な演技と練られた解釈によって見事に表現されている.独白的場面,現実的場面でぽつぽつと上方から落ちてくる赤い花の象徴が効果的に用いられていた.シンプルであるが美しい美術と照明も印象に残る.ラストの小町が立ち去るシーンで,無慈悲で硬質な残酷さと滑稽さが余韻を残す.皮肉と叙情に満ちた傑作のエッセンスを見事に拡大した優れた演出だた.
藤原竜也主演の「弱法師」も,中盤以降の夏木まりと二人きりの場面での独白に若干の単調さ,一本調子を感じたモノの,徹底した人間不信ゆえに周囲の全ての人間に対して嘲弄的な弱法師のニヒリズムはしっかりと伝わってきた.ラストシーンの一瞬での舞台の転換のショッキングな効果が見事に決まっていた.
カーテンコールの藤原竜也へのスタンディング・オベイションは,ちょっと贔屓の引き倒しの感もあり.熱演ではあるけれども,彼の演技は若干平板でニュアンスに乏しいようにも思える.

二作品とも三島戯曲の魅力を再発見させ,その本質を増幅させる見事な演出の舞台だった.大満足.

『卒塔婆小町』はフォレの《パバーヌ》,『弱法師』はペルト.音楽の趣味も,あまりにもストレートすぎるとはいえ,悪くない.