閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

カブキの日

小林恭二(新潮文庫、2002年)
カブキの日 (新潮文庫)
評価:☆☆☆☆★

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琵琶湖上に設営された架空のカブキ劇場を舞台にした「理想の歌舞伎」を主題とするファンタジー。役者たちが引き継いできたカブキ芸術の伝統、カブキの原点を巡る物語を背景に、革新派と保守派のカブキ役者の勢力争いの中で歌舞伎界の至宝の紛失という事件をめぐるミステリー風の物語が展開していく。そしてそこに「カブキの神」に導かれ、カブキ劇場三階の魔界の中をカブキの「本質」への彷徨を続ける一組の若い男女の冒険譚が加わる。複数の物語は最後に見事に収斂し、カブキを巡る一つの大きな物語が終わる。
「聖杯の探索」のような古典的な物語の枠組みをうまく利用して描写された、幻想味に満ちたカブキ劇場の世界が魅力的。全体の物語全体も歌舞伎狂言の古典の一つの型をなぞったものになっている。小林恭二による新作狂言を観てみたくなった。