閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

メタルマクベス Metal Macbeth

SHINKANSEN☆RS

シェイクスピア作品は高い普遍性を持ち,自由度の高い素材ではあるものの,宮藤官九郎による今回のマクベス脚本はこの自由さをうまく生かし切れていない.クドカン×新感線の独自性導入という「しばり」がかえって翻案を不自由なものとし,結局は古典としての重みにとらわれてしまった感じがある.核戦争後の未来(うーん,この設定の発想の陳腐さ.ある種の「約束事」なのかもしれないが)に舞台を設定しているもののほぼ原作の本筋に沿った物語に加え,1986年のバンドブーム直前に存在していた伝説的メタルバンド,「メタルマクベス」の物語を平行させるというアイデアは,かえって作品を無駄に冗長・複雑にし,ドラマのダイナミズムをそいでしまっている.テンポが悪くて長さを感じる公演だった.


このあまり出来のよくない脚本を,いのうえひでのりが手練れの演出手腕でなんとか娯楽作品に仕上げている.しかし作品解釈の上では新基軸を打ち出せず,原作の物語の表層をなぞっただけの舞台になってしまった.人物設定も中途半端で役者の魅力を生かし切っていない.松たか子はとてもいい.舞台映えのする達者な役者だとあらためて思う.この作品でも松たか子の役者としての潜在能力は十分に活用されていて,特に彼女の狂騒的でスピードに満ちた動きは印象に残る.
宮藤脚本の失敗ゆえにかえってシェイクスピアの戯曲の力強さが浮き上がってきた公演だった.シェイクスピアのような古典の書き換えの難しさを再認識させる翻案公演だった.才人クドカンをしても『マクベス』という素材は相性があわずうまく生かし切れなかった.
この五月に見た歌舞伎の黙阿弥とか南北の書替え狂言は,これを思うと,自由闊達で創造的な遊戯性が豊かだ.年季と伝統とセンスだなぁ.
新感線公演としては不満の残る公演.