閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

珊瑚

新田次郎(新潮文庫,1983年)
珊瑚 (新潮文庫)
評価:☆☆☆☆

                                                      • -

新田次郎の作品としては珍しい,海洋を舞台とする小説.明治末に長崎県五島列島周辺で連続して起こった大規模な海難事故が素材.犠牲者の大半は,五島列島南端の福江島から南南西に60キロメートルの位置にある男女群島で操業していたサンゴ漁師である.三人のサンゴ漁師の友情と一人の女性をめぐる恋愛のエピソードを軸にドラマを作り,当時のサンゴ漁の活気と海難事故の様子を緻密に描写するレアリズムは新田次郎小説ならではの魅力に満ちている.友情と恋愛を主題とするロマンチックな主筋は若干通俗に流れすぎるが,読み応えのある佳作だと思った.『八甲田山』のようなスペクタクル映画のかたちでも観てみたい作品である.
巻末に付せられた30ページ近くある取材ノートの内容も,小説化された素材となる事実が明らかになる過程が細かく記されていて興味深い.
男女群島は現在は住人のいない島だが,周辺は好漁場で釣行で訪れる人は多いようだ.