閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

職さがし La Demande d'emploi

  • 作:ミシェル・ヴィナヴェール Michel Vinaver
  • 訳:藤井慎太郎
  • 演出:アルノー・ムニエ Arnaud Meunier
  • 美術:Camille Duchemin
  • 照明:Frederic Gourdin, 西本彩
  • 衣裳:有賀千鶴
  • 出演:高橋広司(文学座),永井秀樹,石橋亜希子,山口ゆかり(以上三名,青年団)
  • 上演時間:1時間45分
  • 劇場:駒場 こまばアゴラ劇場
  • 評価:☆☆☆
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文学座と青年団の交流企画の一つ.ミシェル・ヴィナヴェールは1927年生まれの劇作家.『職さがし』は1971年の作品.この作品は2001年に世田谷パブリックシアターで,鐘下辰男演出,今井朋彦南果歩他によって,ドラマ・リーディングの形で上演されている.今日は今井朋彦の姿が観客席にあったが,鐘下演出で今井朋彦が出ていたなら,その舞台をリーディングとはいえ見ていないことが悔やまれる.このときの訳は今回と同じ藤井訳.藤井訳は自然な日本語で,翻訳調の耳障りな感触はほとんど感じられない.
演出家のムニエは1973年生まれの若い演出家で,この秋にパリのシャイヨー国立劇場で平田オリザの『ソウル市民』を演出する.

求職中の中年男を軸に,男と企業面接官,妻,娘との会話がばらばらに分断された上,一つの場面の中で交錯してコラージュのかたちで提示される.3,4分ほどの長さの30の場面で構成された一編.妻-娘,面接官-妻といった男を介さない会話もあるが,男は劇中の軸であり,たいていの場合他の三人との会話の対話者となっている.職さがしの過程で男はどんどんと自己喪失していくと同時に家庭内でも妻との関係不全,娘の妊娠などの問題がわき上がってくる.男のアイデンティティを形作る社会関係と家庭内関係の両者の崩壊が同時進行していく中で男の精神は混乱を深めていく.ちょうど「職さがし」のただ中にあり,道を歩いている途中でいろいろなマイナスの想念が突然わき上がってきて「わーっ」と叫び出したくなる衝動にかられることのある僕には,とても親しみを感じる状況である.
戯曲の意図は明瞭なのだが,舞台作品として楽しめるかどうかは別問題.時間軸やエピソードをここまで細断した上で再構成されると,かなり工夫をして提示しないと見ている観客がそのコラージュを読み取るのに疲労してしまうのである.僕は三場面目ぐらいで疲れてしまった.だんだんとは慣れてきたものの,一時間四五分,30場面が基本的に同じ調子というのはしんどい(もちろんところどころ味付けはしてあったのだけど).今ひとつ才気の感じられない演出のため,舞台作品としては単調なものになってしまった.ミニマリズムといってもねぇ.
わざわざフランスから金をかけて呼び寄せているのだから,もうちょっとはびっくりさせるような芸を見せてほしいものだ.「プロ」の舞台作品の水準には達しているけれど,いかにも補助金もらって作っている芝居だなぁという感じの舞台だった.