Project Nyx
原作:寺山修司
構成・美術:宇野亜喜良
演出:金守珍(新宿梁山泊)
照明:泉次雄+ライズ
振付:大川妙子
人形遣い:森田晋玄,大川妙子
舞台美術:宇野亜喜良/梶村ともみ/野村直子
衣装:宇野亜喜良/沖中咲子出演:松田洋治,広島かつら
上演時間:一時間
劇場:下北沢 シネマアートン下北沢
評価:☆☆☆★
新宿梁山泊の金守珍演出による寺山作品ということで関心をそそられたのだが,梁山泊所属女優(元?)の広島かつらの個人プロジェクト,Project Nyxの旗揚げ公演だった.シネマアートン下北沢はスズナリの隣にある映画館.中にはいるのは今日が始めてである.客席は50席ほどの小さな映画館だった.今日は補助席も出て,立ち見もあって70人くらいは入っていたように思う.作家の梁石日が観に来ていた.
原作は戯曲ではなく,大人のための絵本である.沈んだ調子のあるシャンソンの歌詞の一節,「海で死んだ人間はみなかもめとなって戻ってくる」を自由に発展させて作られた一編の悲恋の物語.いかにも陳腐な悲恋なのだが寂寥感と詩的イメージに満ちたきわめて魅力的な作品である.単純で力強い線と色で描かれた下谷二助の絵も素晴らしい.
舞台は金守珍らしい音楽を豊かにつかった演出だった.後方のスクリーンに絵本の内容などが映し出される.最初のうちは二人の役者が交互に絵本を朗読しているだけなのだが,次第にコラージュ風に寺山の「世界名言集」や他の作品の引用,原作の絵本の内容から敷衍された新たなエピソードがなどが挿入される.女優にそっくりに作られた人形も登場.
しかし絵本以外のあらゆる演劇的要素が効果的に用いられていたかどうかは疑問だ.寺山の原作のことばと絵があまりに繊細で美しいだけに,それ以外の要素は原作のよさを損なっているとはいえないまでも,相乗効果で新たな豊かさを生み出していたようには僕には思えなかった.原作のよさは十分に伝わってくる舞台ではあったが,朗読技術は凡庸でさえないし,絵本の絵のイメージが十分に饒舌であるだけに,生身の役者二人がうっとうしく思えるときがあった.むしろこういった作品の場合は,生身の役者よりも人形劇という形態の方が観客の想像力を刺激しやすいように思った.