『新門辰五郎』配役
真山青果作だがストイックな『元禄忠臣蔵』と異なり、派手な立ち回りなどのスペクタクルも取り入れた娯楽性の高い作品だった。時代は幕末、将軍のお供として京都に徒党を引き連れてやってきた江戸の火消し、侠客、新門辰五郎は実在の人物だったそうだ。この辰五郎と火消しの部下たちが、同じ時期に京都にいた会津藩の見廻組と派手なけんかをくりひろげ、最後は親分同士の和解で終わるというお話。写実を土台に、歌舞伎的な様式をアクセントとして効果的にバランスよく取り入れた優れた舞台だった。一部の役者が台詞に躓き、リズムが乱れるところがあったが、日がたつにつれ改善されるはずだ。
東山での起こった火事に対し、「祇園様は京都の宝だ、京都の宝は日本の宝だ!新門の命にかけても、必ず此の火事は消口をとってみせる」という辰五郎の啖呵が聞かせどころ。この決め台詞を吐く梅雀の声の調子と勢いがしびれるほどかっこいいのだ。そしてこの一声に続く、火消したちによる朗唱の迫力と緊張感。この前の場にある、会津組と江戸火消しの激しい立ち回りも見所。舞台上の役柄でも梅雀演じる辰五郎の父を演じた梅之助のほんわかした台詞回しの滋味の豊かさも印象的だった。
華やかなスターに欠けるような印象のある前進座だが、梅雀をはじめ、嵐圭史、藤川矢之輔、河原崎國太郎といったベテランのみならず、嵐広也、中島宏幸といった中堅どころまで芸達者がそろっており、芝居に薄さは感じられない。充実した演劇的感興を味わい、大いに満足する。
歌舞伎を見慣れている人はもちろん、歌舞伎を見たことのない人へも薦めたい舞台だった。