http://www.nntt.jac.go.jp/season/updata/10000122.html
- 作:平田オリザ/李六乙
- 演出:李六乙/平田オリザ
- 美術・衣裳:嚴龍
- 照明:岩城保
- 作曲:郭文景
- 出演:篠塚祥司、佐藤誓、内田淳子、粟田麗、能島瑞穂、果静駿、韓青
- 劇場:初台 新国立劇場小劇場
- 時間:1時間50分
- 評価:☆☆☆
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
- -
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
2002、5年に新国立劇場で上演された平田オリザと韓国の演劇人による日韓合同制作作品『その河をこえて、五月』は、国際共同製作の理想的結実と言ってもよいような優れた作品だった。平田の劇作術をベースに、日韓両国人の間の微細な違和感が絶妙な台詞のやりとりの中で再現される。喜劇とも悲劇ともいえない日常的な風景の描写の過程で、我々はかすかではあるものの確実な相互対話の希望を見いだすことができたように思う。
この四月にシアタートラムで上演された『別れの唄』は、日仏の文化衝突を主題としていたが、『その河をこえて、五月』の応用編とも言える作品だった。
こうした実績を残している平田オリザの作品だけに、中国の演劇人との共作である『下周村』も期待せずにはおられない。
『下周村』では日中の二人の演出家の個性がぶつかりあった。『その河をこえて、五月』では劇作術のベースは平田オリザの世界であり、それに韓国の演劇人の香りを加えて若干の変化を生み出すといったスタイルだった。『下周村』では、中国四川省あたりの古代遺跡のそばにある寒村が舞台となっていて、この村にあるつつましい宿屋での日中両国人の邂逅の中でドラマを作り出していく。
前半はほぼ平田の世界だ。ただ四月に見た『別れの唄』と『東京ノート』の密度の高さを思うと、『下周村』のディアローグの粗さ、人物関係の対立の作り方はかなり物足りない感じがしてしまう。中国人俳優の演技は平田メソッドを完全に消化しているようには思えなかった。それでも平田作品だけあって、「東京ノート」の二番煎じのような雰囲気ではあるものの、作品は一定のクオリティを保持している。
しかし中盤になるとがらっと雰囲気が変わってしまうのだ。中国人演出家の李六乙の世界に突如として芝居の世界は転換してしまう。登場人物は全員舞台上に登場し、幻想的な照明のもと、思い思いのポーズをとり、台詞を唱える。写実性は捨て去られ、台詞は形而上学的で難解なものになっていく。哲学的なモノローグが重なり合うといった感じで後半は進行する。正直難解で置いてけぼりにされた感じだった。
同じ主題、同じ設定で、平田と李がそれぞれのやり方で、コインの裏表のように前半と後半を作り上げたという感じである。この反発が果たして効果的であったかどうかは大いに疑問。後半部のひとりよがりな表現は私の好みではなく、正直その頭でっかちの表現にちょっと辟易とした感じだった。