閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

丹下左膳餘話 百萬兩の壺(1935年)

http://www.h4.dion.ne.jp/~wsdsck/contents/yamasada.html
今週は早稲田松竹山中貞雄作品の二本立てだった。早世した監督の遺作である『人情紙風船』は図書館で1年半ほど前にLDで見た。黙阿弥の原作の骨子を尊重しつつ、歌舞伎の『髪結新三』のからっとした明るさとは異なる陰影に富んだ、悲観的で深みのある物語と前進座の役者たちの緊張感に満ちた演技に引き込まれた。今回の2本立てでは『百萬兩の壺』と『人情紙風船』が上映されていたが、時間の関係で後者はスクリーンで見ることができず残念だった。
傑作といわれる『百萬兩の壺』は明朗軽快な喜劇作品。百万両のありかが記された紙が塗り込まれている壷の行方を巡る喜劇的なサスペンスを物語の軸に、射的屋のおかみとその居候の用心棒丹下左膳とその夫婦の間に入り込んだ孤児の擬似家族の心温まる交流をさわやかに描く。
筋の展開の中で浅ましい金銭欲の象徴となる壷の扱いが非常に巧み。ちょっと予想外のラストには思わずにやりとしてしまった。手にすれば確実に大きく人生が変わってしまう百万両を敢えて手にしないで、むしろ安楽な日常を選択するという健全な風刺が心地よい。