- 上映時間 123分
- 製作国 アメリカ
- 初公開年月 2007/08/25
- 監督: マイケル・ムーア
- 脚本: マイケル・ムーア
- 撮影: クリストフ・ヴィット
- 出演: マイケル・ムーア
- 劇場:豊島園 ユナイテッド・シネマとしまえん
- 評価:☆☆☆★
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民間保険しかなく、5000万人が無保険だという合衆国の医療保険制度の問題をとりあげたドキュメンタリー。アメリカではたとえ医療保険に入っていてさえも一度大きな病気や怪我をすると、保険会社の利益確保のため、被保険者には厳しい制限がかけられ、時には実質的に保健医療から締め出されてしまう。保険認定が下りなかったため、家を売り払い、独立した子供の物置部屋に身を移さざるを得なかった老夫婦や治療費不足のため貧民街の慈善施設の前に捨てられてしまう老患者の悲惨さが痛ましい。
日本でも小泉政権以降、民間でできることは民間に移し公共が担当する範囲を縮小していく、という動きが顕著であり、国民はこうした流れに同調し、自民党政権を支持してきた。財源節約のために、利益を生まない福祉分野の切捨てが年々ひどくなっているような気がするが、国民の底辺レベルの生活・文化の維持に貢献するような公共サービスを、利益追求を目的とする営利企業に譲り渡すことの危険性はこの映画を見れば明らかだ。
この映画の問題提起は重要で深刻であるが、しかしアメリカの医療制度の暗黒面を強調するために、カナダ、フランス、キューバをあたかも天国であるかのように紹介する手法のあざとさには疑問を感じる。フランスの公共福祉制度は確かに素晴らしい。日本よりもはるかに充実している。休暇は多いし、保育・教育はすべて無償、失業保険も充実し、文化的助成にも積極的。しかしこのような充実した社会制度のもと、はたして多くの人がばら色の人生を送っているかどうかはまた別問題である。ムーアはパリの中心部しか映していないが、同じパリでも北東部の辺境、そして郊外にちょっと足を伸ばし、その貧困と荒廃に目を向ければ、フランス社会が希望に満ちた明るいものでないことは容易に見て取れるはずだ。
フランスの「名物」のひとつであるストとデモにしても、社会改善のための建設的提言よりも、恒常的に蓄積する不満と絶望のはけ口である面が大きいようにさえ私は思われる。もちろん今もなお社会的抑圧の状況の中で孤立することなく連帯可能なフランスの社会的弱者は、孤独の中で打ちひしがれる日本の弱者より、幸福であるとはいえるのだけれど。
私はフランスで大病を患って入院し、それ以外にもフランスの医療の世話になったことはトータルでほぼ3年の滞仏中に何回もあった。町の一般医と大病院の専門医の役割分担とその連携、町のブロックごとにある検査用施設と地区医院との連携、徹底した医薬分業、必ず箱と説明書とともに売られる売薬、日本での同等品をほぼ半額で買うことのできる薬価、一般的に日本よりも親切で知識のある薬剤師等々、フランスの医療制度は、保険請求の手続きの手間の面倒などのデメリットはあるものの、総じて優れたものであるように思った。医者も私が会った限りでは、日本の医院では例外的に思えるほど、親切で丁寧な人ばかりであった。しかしだからといってフランスが、私が外国人であることを差し引いても、日本よりも住みやすい社会であるとは決して思えない。
ムーアのやり方は露骨に誘導的であり、その露骨さゆえに彼の問題提起までちょっとうさんくささが漂ってしまったのが、この映画の難である。キューバやカナダについても同様だろう。