文学座
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- 作:平田オリザ
- 演出:戌井市郎
- 装置:石井強司
- 照明:山内晴雄
- 衣装:中村洋一
- 出演:川辺久造、加藤武、坂口芳貞、坂部文昭、清水幹生、田村勝彦、戸山誠二、山谷典子、佐藤麻衣子、八木昌子
- 劇場:代々木 紀伊国屋サザンシアター
- 上演時間:2時間
- 評価:☆☆☆★
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<あらすじ>
201X年早春、東京を直下型地震が襲った。
なんとか全壊は免れた喫茶店「ライン」には、避難所暮らしの人、家族を亡くした人、ボランティアの学生に得体の知れない人物まで、様々な人たちが出入りする。この店に来て何が解決するわけではないが、皆ほんの少しだけ元気を取り戻しては帰っていく。
目下「ライン」で最大の話題は、毎年恒例の商店街の花見を行うかどうか。他愛なく盛り上がる商店街の人たちだが、それぞれに心に傷を負い、不安を抱えている。
久保田万太郎の世界が、人々の心安らぐ大切な「居場所」として、平田オリザの手によって甦ります。
なぞの男の導入といった仕掛けで、予定調和の物語世界にゆさぶりをかけるといった手法など、劇の作りにはいかにも平田オリザらしい劇作術を感じる部分もあったけれど、90歳を超えて現役の脅威の演出家、戌井市郎の演出フィルタを経ることで、作品はすっかり文学座色に染まっていた。善人ばかり出てくる芝居のうえ、役者の演技の記号性により、のっぺらとして奥行きの乏しい作品になってしまったような感じがした。最後に住民は喫茶店の中で歌い踊る。しかしこの歌と踊りはいかにもとってつけた感じで説得力に乏しい。見ていて気恥ずかしい場面だった。震災後に避難生活を送る老人たちを歌い躍らせるには、もっと劇的で強制的な何かが必要なはずだ。あれでは「劇の終わりです」という記号的表現に過ぎない。
数年前から居住している団地の自治会の役員をやっている。役員の中核は60歳以上の男性であり、震災の際の活動は彼らがもっとも関心を持ち、熱心に考えている活動のひとつだ。僕は生まれ故郷の神戸が震災で大きな被害をこうむったにもかかわらず、なぜか防災問題にはあまり関心がないのだけれど。
あくまで虚構とはいえ、実際に震災後に自治会や町内会、商店会の老人たちの間で、あの喫茶店ラインのような牧歌的世界、アジールが成立するかについては、僕はちょっと疑問を抱く。震災の際の地域コミュニティの意義は、自治会などでも強調されることがあるけれど、すでに地域コミュニティの弱体が激しい東京都市部で、実際のところ自治会などはどれほどの効力を持ちうるのだろうか。被害規模によるだろうけれど、平田がこの作品で描いた世界はあまりに楽天的過ぎる気がして、物語としても受け入れがたいところがあった。
平田戯曲としてはそれほど優れた作品ではないように思う。