閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

オーカッサンとニコレット

ギィ・フォワシー・シアター 第77回公演

第1部:ギィ・フォワシイが新たにプロローグ、エピローグを加筆した作品

  • 脚色:ギィ・フォワシイ
  • 訳:神沢栄三、山本邦彦(ギィ・フォワシイ部分)
  • 台本・演出:平山勝
  • 出演:今井敦、高山春夫、桝谷裕、山下清美、松苑ゆみ、土谷春陽、山崎哲史、打越麗子、遠藤綾野、中野壽年、夕鶴みき、岡崎ちかこ、早坂佳子、平岩佐和子
  • 上演時間:1時間20分

第2部:「オーカッサンとニコレット」
石と泥にまみれて

  • 作詞:ピエールノット
  • 作曲:ピエールノット、ラヴォー真知子
  • 歌:マリーノット、ピエールノット
  • ピアノ演奏:ラヴォー真知子
  • 上演時間:約40分
  • 劇場:両国 シアターχ
  • 評価:☆☆

歌物語 オーカッサンとニコレット (岩波文庫)

歌物語 オーカッサンとニコレット (岩波文庫)


『オーカッサンとニコレット』は13世紀初頭、北フランスで書かれた「歌物語」Chante-fableである。作者はわかっていない。散文の部分と旋律を伴う韻文の部分が交互に現れる独特の形式を持ち、豊富なダイアローグを含む。フランスの諸侯の王子オーカッサンとサラセン人から奴隷として買われ、その国に住むニコレットの恋物語。宮廷風物語などの既存のジャンルの内容への風刺的内容を含む、波乱万丈の冒険と愛の物語で、中世フランス文学の中ではもっともよく現代でも知られている作品のひとつだと思う。その典雅でロマネスクな味わいは、岩波文庫版の川本茂雄訳を通しても、十分にしることができるだろう。シェイクスピアのロマンス劇、『ペリクリーズ』を連想させる雰囲気の話である。

もともとこの作品はジョングルールと呼ばれる多芸の放浪芸人が、落語のように、声色や身振り・手振りによって登場人物を演じ分けることによって演じていた語り物文芸だと考えられていて、演劇的性格が強い。現代における演劇化はこれまで何回も試みられてきたようだ。劇団NLTも12月に同じ演目を上演することになっている。

ギィ・フォワシイ・シアターは、その名の示すようにフランスの劇作家、ギィ・フォワシイの作品を30年以上にわたって演じ続けてきたユニットである。今回上演された『オーカッサンとニコレット』では、フォワシイが作品を脚色すると同時に、プロローグとエピローグを書き加えた。
プロローグとエピローグは、現代に設定されている。原作と同じくニコレットと呼ばれる女性が、オーカッサンという名の男との恋愛関係の不安を祖母に打ち明ける。祖母は情緒不安定となっている娘に、13世紀の歌物語を語り聞かせるという、外枠を設定している。このプロローグ、エピローグは蛇足そのもの。外枠のコンテクストが、内枠の物語提示を効果的なものにしているとは僕には到底思えなかった。むしろ過去の時代の結晶のように美しい物語を、陰気で陳腐な物語で損なっているような感じさえ持った。

さて本編にあたる内側部分であるが、『オーカッサンとニコレット』は独特の洗練された文体・形式を持つ、典雅な雰囲気のある魅力的な物語とはいえ、お話としては素朴な民話的な味わいの作品である。大人向けスペクタクルとして提示するにはかなりの工夫が必要だと思うのだけれど、演出の原則が中途半端だったため、ちょっと子供だましで安っぽい雰囲気になっていたのも残念だった。親子で楽しめるスペクタクルを目指すという方向性もありうるお話だと思うのだけれど、そうするならそうするで徹底した工夫と配慮が必要となるだろう。12月のNLT公演でもこの演目を上演するが、どの方向での舞台なのかちょっと楽しみだ。シェイクスピアのロマンス劇みたいな世界を提示することもやり方しだいでは可能だと思う。

生演奏の音楽と効果音は面白かった。

第二部はピアノ一台、フランス人男女一組よる歌とダンスによる即興的雰囲気の創作劇だった。シャンソンのレビューといった感じ。
フランス語上演、字幕無し。歌と音楽はよくできていて面白かったのだけれど、わざわざ中世の物語劇に組み合わせてやる必然性は感じない。一応翻訳ははいふされていたけれど、字幕無しのフランス語でオリジナル作品の上演を東京でやるとは。上演自体がそもそもものすごく内向きな感じだ。これでは一般の演劇ファンはまず見に来ないだろう。