佐藤佐吉演劇祭参加作品
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- 作・演出:名執健太郎
- 照明:伊藤孝(株式会社ART CORE)
- 音響:中村嘉宏
- 美術:田中敏恵
- 小道具・衣装:大橋路代(パワープラトン)
- 出演:白神美央、遠藤留奈、宮嶋美子(風琴工房)、深谷由梨香(柿喰う客)、石井舞、石澤彩美、大塚麻央、富田恭史(jorro)、河西裕介(国分寺大人倶楽部)、尾倉ケント(アイサツ)、後藤剛範(害獣芝居)
- 劇場:王子小劇場
- 評価:☆☆☆☆
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裏社会とつながら社会の周縁で、身を寄せ合いながらたくましく生きる三姉妹の物語。
花村萬月のハードボイルド小説にありそうな疑似家族ものの世界が、演劇的枠組みの中で見事なかたちで再現されている。三姉妹には血縁関係はない。彼女たちの母親はわからない。彼女たちの父親はゲイのカップルで、三人は二人の父親の養子だったのだ。
明日をも知れぬ刹那の中を生きる裏社会で、疑似家族は時に血縁でつながった本当の家族以上の濃厚な結びつきを持つこともありうる。弱肉強食の殺伐とした世界のなかで、緊張感を強いられる彼らにとって、かりそめなものであっても家族的な安らぎは、平凡な世界の人間よりも切実なものかもしれないからだ。この二つの世界は、作品の中で強烈なコントラストをなす。
開演前からがんがん大音量で音楽がかかる。開演直前の暗転時には耳を劈くような大音響に。これがハードボイルドの世界の空気の不穏さを暗示する。幕間の暗転時の音楽の選曲がいい。おおむねハードロック系の曲がかかるが、父親の臨終の連絡が入る場面でかかるクイーンの名曲、「Save me」がとりわけ印象的だった。
3人姉妹の各人物の性格設定が明瞭でとてもよくできている。この三者の違いを際立てる演出がよいのに加え、女優の三名がそれぞれ強烈に魅力的だ。みんな可愛いし。とりわけ長女役の遠藤留奈の存在感は圧倒的だった。こじき女役の白神美央もとてもいい。適材適所といった感じで、各女優の特性がうまく引き出された配役、演出になっていたように思う。
若い役者ばかりだったにも関わらず、ハードボイルドの世界の雰囲気がうまく出ていたのにも感心した。卓越した演出力のおかげだと思う。
不満はお話がきっちりと作られすぎていたこと。疑似家族ハードボイルドの定型的世界観を演劇的に再構成する手腕はすばらしいのだけれど、筋の整合性が高いため、味わいとしては上質の娯楽小説風となっている。個人的にはあいまいで不可解な世界もあるお話のほうが好みなのだ。伏線をきっちりと回収させるようなタイプの物語を構成するのは一つの技術だが、あいまいで説明しがたい部分をバランスよく配置するというのもまた一つの技術だと思う。
次回作も見てみたいと思ったのだけれど、smartballとしての活動はこれが最後になるという。演劇的な枠組みを積極的に利用することで説得力のある「暗黒世界」の雰囲気を作り出すセンスに感心したので、ちょっと残念な気もするが、演劇活動自体を停止するわけではないだろう。
名執健太郎の活動が今後どのような方向に変化していくのか楽しみだ。