閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

http://www.sunshine-theatre.co.jp/lineup/105.html

  • 作:ロベール・トマ
  • 訳:青井陽治
  • 演出:齋藤雅文
  • 美術:大田創
  • 照明:沢田祐二
  • 衣装:黒須はな子
  • 出演:池畑慎之介、川粼麻世、宮川浩、田口守、杜けあき上條恒彦
  • 上演時間:2時間50分(休憩15分)
  • 劇場:池袋 サンシャイン劇場
  • 評価:☆☆☆☆
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松竹製作の商業演劇の公演。
フランス、パリの大衆娯楽劇であるブールヴァール劇の代表的作家のひとりとされるロベール・トマの作品であることに加え、e+で割安のチケットが出ていたので見に行った。松竹の商業演劇公演はいつも興行としては苦戦しているような印象がある。

ロベール・トマの作品は人気が高くて、今年に入ってからも7月にNLTが『殺人同盟』を上演したし、そして11月にはテアトル・エコーが『フレディ』を取り上げる。後者も見に行く予定である。こういった娯楽系の演劇についてはこれまであまり興味がなくて、トマも数年前に上演されたフランソワ・オゾンの『八人の女たち』の原作者として僕ははじめて知った。へんてこで脱力したようなミュージカル仕立てのミステリー劇であるこの映画を僕はかなり気に入っている。
『罠』はパリで1960年に初演されたが、日本でも早い時期から繰り返し上演されているトマの人気作のようだ。

見る前はあまり期待していなかったのだけれど、予想外に面白い作品だった。とにかく戯曲がとてもよくできている。最初の設定はかなり独創的だ。

フランスの高原のシックな雰囲気の山荘の居間が舞台。新婚三ヶ月目の夫婦がそこに滞在しに来るのだが、夫婦喧嘩のあげく、妻が家を出て失踪してしまった。夫は警察に捜査を要請した。
失踪10日後、地元の村の神父に付き添われて妻が戻ってくる。しかしその「妻」は夫が会ったこともない女性だった。

この「妻」を自称する得たいの知れぬ女性を池畑慎之介が演じている。夫役は川崎麻世、地元の警察署のベテラン刑事が上條恒彦
夫は当然、やってきた女性が自分で妻であることを否認するのだが、妻と称する女性は夫婦生活のあらゆることに通じていて、実に妖しげな存在にも関わらずすきがない。夫はもとからかなり不安定で芯の弱そうな人物として造形されている。二人の証言者の介入が事態をますます錯綜させる。

話の設定は不自然で荒唐無稽なところがある。リアリズムではなく、状況を人工的につくることでなぞかけの連鎖を楽しむという趣向の芝居だ。作風はからっと乾いた感じで、軽妙な喜劇展開のリズムがとてもよい。
舞台役者としての池畑慎之介、川粼麻世も魅力的だ。人物の個性をしっかりと造形しているし、ちょっとした表現で観客の笑いを引き出す技も見事だった。会話のつながりのリズムもよく考えられている。
役者のアンサンブルは総じてよかったが、宝塚出身の女優の演技だけが全体から浮いているような感じがした。

ミステリーを読みなれたひとなら見当はつくのかもしれないけれど、意外性ある結末も面白かった。
結末は「えーっ、それはないんじゃないの」と思わず声を出そうになる強引なところもあるの。しかし推理劇としてはかなり不自然に思われる展開が、実は演劇という枠組みのなかで役者たちが演じることと重ねあわされているのだ。この仕掛けの巧妙さ、遊戯性には感心してしまった。