閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

ウルリーケ メアリー スチュアート

tpt 70
http://www.tpt.co.jp/

  • 作:エルフリーデ・イェリネク
  • 訳:山本裕子
  • 台本・演出:川村毅
  • 装置:石原敬
  • 照明:笠原俊幸
  • 衣装:萩野緑
  • 音響:藤平清永
  • 出演:手塚とおる、濱崎茜、大沼百合子、伊澤勉、石村みか、狩野淳
  • 劇場:森下 ベニサン・ピット
  • 上演時間:1時間40分
  • 評価:☆☆☆☆★
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ハネケの映画、『ピアニスト』の原作者であるイェリネクの戯曲。超難解で超変態な芝居らしい、ということでものすごく気になっていたのだけれど、ちょっと高めの料金(6000円)、ちょっと苦手な川村演出ということで、チケットを買うかどうか迷っていた。が、マイミクのレビューで絶賛されいていて、即予約。面白かった。TPTの最後を飾るにふさわしいキンキンに尖がった、エネルギッシュな舞台だった。

変態ぶりはそれほどでもなかったが、晦渋な言葉の連なりに圧倒される。
ウルリーケってのがいったい何者なのかまったく知識がなかったのだが、1970年のミュンヘン・オリンピックでテロ事件を起こしたドイツ赤軍の闘士だとのこと。彼女は同じ赤軍内の女性闘士、グードルンと激しく対立する。この二人の対立が16世紀後半のブリテンにおける、メアリー・スチュアートエリザベス一世の対立に重ねられる。この二人の対立を描くシラーの歴史劇がイェリネクのこの作品の土台となっているらしい。ドイツ赤軍の闘士、ウルリーケは、16世紀後半のスコットランド女王、メアリーと重なる。ウルリーケのライバルであるグードルンは、エリザベス女王と重なることになる。川村毅はさらに日本の連合赤軍による浅間山荘事件を重ね、劇の人物たちの台詞は三層の時空の間で互いに参照しあうようになる。

10分ほどの断片的場面がめまぐるしく入れ替わるコラージュ形式の舞台だった。川村が導入した連合赤軍のパートでは各登場人物の対話が成立している場面があったが、演説風の長大なモノローグの場面が多い。その言葉の多くは、何かあるメッセージを他者に伝えるというよりは、語る主体をイデオロギーの枠のなかに無理やり押し込めるためかのような、息苦しい叫びのように感じられた。語っている主体が、言葉の響きがもたらす陶酔のなかで、自己を喪失していく。そう、かつて(ごくまれに今も)大学のキャンパスで、圧倒的多数のノンポリの学生に対して、アジ演説を行っていた革マルの残党の姿を思い浮かべずにはいられない。
難解な言葉の圧倒的な連なりのなかで語り手は締め付けられ、自由を失っていく。長大なモノローグの過程で人物のアイデンティティは時空を超えて移ろい、空洞化し、流動的なものになる。

ベニサン・ピットの空間、縦の高さと奥行きを活用した動きのある演出が見事だったグードルン/エリザベス女王の化身となった大沼百合子の狂いっぷりも凄かった。頭のおかしな女王がぴったりとさまになっている。

日本赤軍という新たな層をオリジナルに付け加えた川村の創意は僕にとってはありがたいものだった。この自分にとってより身近な層があることで、ウルリーケとメアリーという遠い人物たちの無機的なモノローグにつきあうことができたように思う。