閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

ミザントロオプ

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作:モリエール

  • 演出:手塚とおる
  • 訳:辰野隆訳『孤客 あるいは怒りっぽい恋人』
  • 美術:萩野緑
  • 照明:深瀬元喜
  • 出演:岸田研二 濱崎茜 河合杏奈 植野葉子 小谷真一 井上裕朗
  • 上演時間:2時間10分
  • 劇場:森下 ベニサン・ピット
  • 評価:☆☆☆★
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モリエールの性格喜劇の傑作である『人間嫌い』を上演するにあたって、敢えて辰野隆訳を選択しているところに興味を持った。辰野訳は半世紀ほど前の訳だけにいまでは舞台言語としては古臭く感じられるところもあるが、心地よいリズム感と格調の高さがある文体はいまだ魅力的だ。
ただし実際の上演にあたってはこの辰野訳の古めかしさが俳優にとっての枷となってしまったような印象を持った。台詞のことばの発話に役者の神経がいってしまい、台詞のやりとりに対話を感じない場面があった。

主人公の「人間嫌い」、アルセストの性格が生真面目で怒ってばかりいるのに加え、ハッピーエンドではないこの戯曲には、もともと喜劇というには深刻な雰囲気が漂っている。社交上の欺瞞に強烈な拒否反応を示すアルセストの過度の視野狭窄とその社交の欺瞞をもてあそぶことで享楽的に自由を謳歌する若い未亡人セリメーヌの両者の極端さがこの作品の喜劇性を生み出している。しかし音楽を一切使わず、終始暗い殺風景な舞台で上演された今回の公演では、喜劇性がストイックに抑制され、二つの対照的な人生哲学の対立のドラマが抽象的に提示されていた。
戯曲そのものの面白さは伝わってきた舞台だったが、主人公のアルセストの人物造形はあまりに一本調子で、作品そのものも全般的に単調さを感じた。

この芝居の主人公はアルセストではあるが、ことばを自在に繰り、社交界をもてあそびつつ、最後にはそのことばによって自身を失ってしまうセリメーヌという人物がとても魅力的な存在であることにあらためて気づく。彼女の不安定さはとてもモダンな感じがする。