閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

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時間堂
http://www.jikando.com/

  • 演出:黒澤世莉
  • 宣伝美術:大和みゆき
  • 出演:鈴木浩司(時間堂)、大川翔子(劇団競泳水着)、大竹悠子、堺宏子(リュカ)、佐野功、百花亜希、井坂沢(東京タンバリン)、小安光海、戸谷絵里、小田篤史(東京コメディストア)、坪内悟、出水由起子(突スタイル)、笠島清剛、白鳥光治、浜野隆之(下井草演劇研究舎)
  • 上演演目:マリヴォー/酒井三喜訳『奴隷の島』;岸田國士『かんしゃく玉』;チェーホフ『熊』;ピンター『工場でのもめごと』;クリストフ『星々を恐れよ』
  • 上演時間:約4時間(休憩15分二回)
  • 劇場:王子スタジオ1
  • 評価:☆☆☆☆
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劇団初見。一幕物の短い劇のアンソロジー公演だが、その演目の選択の面白さに好奇心を刺激され見に行った。ピンクを基調としたちらしのイラストの可愛らしさにも惹かれた。
休憩15分×2回を含み全4時間の公演だった。飲食、出入り自由で、ほとんど歌舞伎見物のような感じ。ゆるやかでゆったりとした雰囲気のなか、芝居にひたることのできた心地よい4時間を楽しむ。戯曲に対して演出家がとっている距離感が独特な感じがした。オリジナルを茶化しているわけではない。むしろオリジナルのことばは丁寧にくみ取られているような感じさえする。しかしことばをまっすぐに受け取って素直に表現に変換しているわけではない。戯曲のことばと芝居のあいだには奇妙なずれ、ねじれがある。このねじれかたにスマートな諧謔を感じる。
たとえばマリヴォーの『奴隷の島』は18世紀フランスの芝居であるが、作家や作品の時代背景などの知識なしに、作品のことばだけを頼りに愚直に、丁寧に芝居をたちあげていくと、どこか変梃なものができあがってしまったという感じである。東洋人を見たこともない、東洋についての知識をまったく欠いている写本挿絵職人が、マルコ・ポーロの記述だけを頼りに描いた東洋の世界や人々のような。どの作品も座りが悪くておしりがもぞもぞするような不安定感がある。でもその不安定感が独自の味わいを生み出している。
出演している女優に魅力的なひとが多かった。発育不全の少女のような大川翔子の可愛らしさは驚異的だ。「かんしゃく玉」での百花亜希の細やかな感情表現、表情の豊かさ、小柄女優、戸谷絵理の異形的なコケットリー、小安光海の圧倒的な美貌も印象的だった。
王子スタジオ1は王子小劇場の先、歩いて5分ほどのところにある。大きな道路沿いのガラス張りの一階で、公演中も車の音がよく聞こえた。しかしその車の音、通りを歩く人の声などの環境音が、この公演の独特の雰囲気を作り出すのに貢献していたように感じた。
3日まで。できればもう一度あのゆるやかな時間にひたってみたいのだけれど。