閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

チャイニーズ・スープ

元祖演劇乃素いき座+龍昇企画
元祖演劇乃素いき座+龍昇企画『チャイニーズスープ』

平田オリザが27歳のときに書いた戯曲の再演。20年ぶりの再演となる。キャストは初演時と同じ。だが当然20年分年をとっている。70歳台と50歳台の役者の二人芝居。

二人は東側、西側のスパイだった。しかしベルリンの壁崩壊を機に失業してしまう。それから20年が経過した。かつてのスパイ同士がイスタンブールのとあるカフェで再会する。注文したもののなかなか出てこない「チャイニーズ・スープ」を待ちながら、二人はスパイ談義を始める。

「素材の三割は初演のまま残したが、台詞はすべて書き換えた」とのこと。
ちらし裏のシノプシスを読んだときはあまり興味をひかれなかった。しかし柴幸男演出ということで、『御前会議』のときのような思いがけない創意と出会えることを期待し、チケットを予約した。

観客がふだんの青年団公演とはかなり異なる感じがした。年齢層が全般に高い。そして男の観客が多い。

柴幸男的なユーモラスでユニークな味付けはあるけれど、それは平田オリザのテクストの持ち味をさらに引き立たせるものだった。最初、上階のカフェの椅子に腰掛けて、注文したスープを待っていた二人のスパイは、しばらくするとコック服を身につけ、下に降りてスープを作り始めた。ごたまぜのスープのなかで、彼らが経験した大きな過去と小さな記憶が、静かにゆっくりと溶けていく。我々はそれを呆然と眺める。幕切れの溶暗の余韻の深さは平田戯曲ならではの味わいがあった。