閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

ふたりのベロニカ(1991) LA DOUBLE VIE DE VERONIQUE

  • 上映時間:97分
  • 製作国:フランス/ポーランド
  • 初公開年月:1992/06/
  • 監督:クシシュトフ・キエシロフスキー
  • 製作:レオナルド・デ・ラ・フエンテ
  • 脚本:クシシュトフ・キエシロフスキー、クシシュトフ・ピエシェヴィッチ
  • 撮影:スワヴォミール・イジャック
  • 音楽:ズビグニエフ・プレイスネル
  • 出演:イレーヌ・ジャコブ、フィリップ・ヴォルテール、サンドリーヌ・デュマ 、ルイ・デュクルー
  • 映画館:高田馬場 早稲田松竹
  • 評価:☆☆☆☆
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二週間にわたる早稲田松竹のキェシロフスキ特集で『トリコロール三部作』と『ふたりのベロニカ』を見た。この4作品のうち『ベロニカ』は91年におそらくパリで見ている。映像と音楽の美しさ、象徴的で謎めいた表現の数々に、イレーヌ・ジャコブのヌードに大きな感銘を受けたことを覚えている。その後、ビデオやDVD、再上映などで見ていないので、今回、ほぼ20年ぶりに見たことになる。

4作品のなかでは『ふたりのベロニカ』が一番好きだ。ポーランドとフランスに住む二人の女性のドッペルゲンガーの物語。同年同日に生まれ、同じ名前を持つふたりは18世紀前半の作曲家(架空の作曲家だそうだ)の曲を介して、その運命を重ね合う。もう一人の自己を姿を先に確認してしまったポーランドのベロニカはその後間もなく演奏会のさなかに突然死してしまう。ドッペルゲンガーを見た者は死んでしまうという伝承の通りに。パリのヴェロニカも映画の終盤で、ポーランド旅行の写真にもう一人の自分が写っていることに気づいてしまう。結末は彼女が父親のもとへ行く場面で終わる。父親の家の前の木にもたれかかるヴェロニカ。父親は彼女がやってきたことにまだ気づいていない。おそらくパリのヴェロニカもその後間もなく死んでしまうのだろう。彼女の恋人となった人形劇師の物語の踊り子は彼女の運命を暗示しているようだ。

黄褐色のフィルターを通した柔らかい映像が叙情的で美しい場面を描き出していく。二人のヴェロニカの恋愛もしっとりと。イレーヌ・ジャコブのヌードの美しさは絶品だ。静謐な雰囲気の作品だ。その静けさのなかに響く美しい旋律が耳に残る。

トリコロール:赤の愛』は三部作のなかで一番よくわからない作品だった。三部作で好きなのは「白」で、「青」も「赤」も私はあまり面白いとは思わなかった。老判事との邂逅、その判事とヒロインが共感していく過程が納得できない。老判事が語るかつての失恋もありふれた散文的なものに感じられた。あの唐突なラストシーンも狐につままれたような感じ。
思わせぶりな謎をちりばめられ、そこがこの作品の魅力なのだろうけれど、私にはそれをおもしろがる感性に欠けている。スペクタクルはスタイリッシュでかっこいいし、女優は魅力的に撮られているとは思ったものの、いかにもおしゃれで気取った雰囲気が好きになれない。