閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

スタア

劇団昴
劇団昴公式ホームページ

  • 作:筒井康隆
  • 演出:久世龍之介
  • 美術:皿田圭作
  • 照明:小宮俊昭
  • 衣裳:萩野緑
  • 音響:藤平美保子
  • 振付:神崎由布子
  • 出演:宮本充松谷彼哉田中正彦、星野亘、金房求、岡田吉弘、他
  • 上演時間:120分
  • 評価:☆☆☆☆
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中学高校時代、筒井康隆の大ファンで断筆期間の前の彼の作品のほとんどを読んでいる。『スタア』ももちろん当時読んでいて、確か原田大二郎主演で、タモリなども出ていた映画版も見た記憶がある。あの頃の筒井康隆は劇団も持っていて自作の公演も行っていたように思うだが、当時の私は演劇を観に行く習慣がなかった。従って『スタア』の舞台を見るのは今回が初めてである。

劇団昴の公演、加藤健一事務所でよく演出を担当している久世龍之介の演出。予想していた通りの雰囲気の公演だった。喜劇として非常に完成度の高い舞台だった。原作戯曲の指示通り、70年代はじめのままの時代設定で、スタアの雰囲気もその時代を感じさせるものになっている。豪華マンション一室の作りや登場人物の衣裳もレトロな雰囲気が漂っている。笑劇、シチュエーション・コメディのお手本のようなよくできた脚本だ。英国の人気笑劇作家、レイ・クーニーの作品を連想させるきっちりと構成された脚本だった。ブラック・ユーモアの雰囲気、ドタバタ的結末への移行の巧みさもクーニーの作品を思わせる。

久世演出は手堅いけれど定型的で古くささもある。NLT、加藤健一事務所、テアトル・エコーの喜劇に共通してある手練れの役者による確実に笑わせる芝居。内容的にはかなり濃い毒が含まれているのに、定型的な演出・演技によってその毒が柔らかいものになっている。ブラック・ユーモアではあるが観客は安心して笑っていられる芝居だ。こういったエンターテイメントの型に押し込むような演出は私は物足りなさを感じる。やはりこちらをぎょっとさせるような意外性のある仕掛けが欲しいのだ。作品に含まれる毒の強さは数年前に野田秀樹が『The Bee』というタイトルで劇化した筒井の短編「毟りあい」に劣らないはずなのだけれど、それを保守的な喜劇の枠組みのなかに押さえ込もうとする。ケラリーノ・サンドロビッチあたりが演出すればまったく異なる雰囲気の喜劇になったに違いないのだけれど、昴の観客層を考慮するとこのスタイルに落ち着くのだろう。