閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

立川談志追悼公演 談志のおもちゃ箱 ヴェニスの商人? 黄金餅後日談

下町ダニーローズ第14回公演
下町ダニーローズ | officeダニーローズ 立川志らく

芝居の部分は昨年秋に上演した『ヴェニスの商人? 火焔太鼓の真実』http://d.hatena.ne.jp/camin/20110905の再演だが、今回は昨秋に亡くなった立川談志師匠への追悼バージョンになっていた。第一部は落語で「黄金餅」。前半を志らくが演じ、後半は談志が演じた映像につなぐ。落語が終わったあと、休憩を挟まずに第二部の芝居「ヴェニスの商人黄金餅後日談」へと移る。芝居のプロットの骨格は変わっていない。ただし前回とは第一部で演じられた落語の演目が異なるため、その落語のネタに合わせて細部に変更が加えられていた。登場人物の衣裳は談志がハリウッド映画のキャラクターのコスプレとなっていて、やはり細部に談志が愛した映画のパロディ的場面が織り込まれていた。

シェイクスピアの「ヴェニスの商人」は芝居の土台となっているというよりは、「ヴェニスの商人」の有名なエピソードが趣向として取り入れられているという感じで、翻案ではなく、まったく別の作品である。内容タイムスリップもののSFで、展開のアイディアはアラン・エイクボーンの戯曲から取られたことが劇中で明かされている。実際、テアトル・エコー加藤健一事務所などで上演されてもおかしくないようなよくできた娯楽作品だ。前半の落語と連動しているといっても、落語の演目は入れ替え可能なことからもわかるように、芝居部分だけ独立させて上演しても問題ない上質のウェルメイド喜劇になっている。筋の展開はよく練られているし、多彩な出演者のキャラクターも生かされている。

今回も充分に楽しめる内容であったが、「談志追悼」ということで談志が好きだった映画、音楽、ギャグなどを詰め込みすぎたことと、初演とキャストが一部入れ替わったことで、芝居の全体のバランスが崩れてしまい、正直なところ、芝居の密度、エネルギーは初演のほうが上だったように私は感じた。志らくの談志師匠追悼の思いの強さは伝わる公演にはなっていたが。
ヒロインの熊谷弥香は前回に続いての出演となった。実際に見るとはっとするほど美しく、しかも際だった個性を感じさせる女優だ。しかし彼女の存在も前回ほどの衝撃は感じなかった。出演者のなかで異様に強い存在感を示していたのは蛭子能収だった。彼は初演のときには出ていなかった。もう舞台上にいて、何か声を発するだけで、強力なデペイズマンを生じさせる。可笑しくてしかたない。