閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

リチャード三世

子供のためのシェイクスピアカンパニー
公演情報:子供のためのシェイクスピア|華のん企画

  • 作:ウィリアム・シェイクスピア
  • 翻訳:小田島雄志
  • 脚本・演出:山崎清介
  • 照明:山口 暁
  • 音響:角張正雄
  • 衣裳:三大寺志保美
  • 出演:伊沢磨紀 佐藤 誓 山口雅義 戸谷昌弘 若松 力 大内めぐみ 谷畑 聡 チョウ ヨンホ 佐藤真希 山崎清介
  • 劇場:東池袋 あうるすぽっと
  • 評価:☆☆☆☆★
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2年ぶりくらいで子供のためのシェイクスピアカンパニーの公演を見にいった。会場は池袋あうるすぽっと。上演時間は休憩十五分を含み二時間半ほど。
「子供の」の『リチャード三世』は2006年の上演のときに見た。これまで見た「子供の」の幾つかの作品のなかでは一番好きな作品だ。歴史劇ゆえに人物関係が慣れるまでわかりにくいのだけれど、巧みなテクスト・レジによって筋が整理されているし、椅子と机だけを使った黒幕背景のシンプルな美術装置で展開もスピーディだ。黒コート集団のコロス、一人複数役といったカンパニーの特徴となる仕掛けが、物語展開ときっちりかみ合っていて絶妙の効果をもたらしている。何よりもこの『リチャード三世』では、やはりこのカンパニー特有の趣向である腹話術人形を、リチャードの左手にできた人面瘡とし、リチャードの内的な対話者として設定するアイディアが秀逸だった。人形によって、稀代の悪党であるリチャードの孤独、葛藤の深さが、可視化される。
子供のためのシェイクスピアカンパニーの『リチャード三世』は、人形の導入をはじめ、台詞や芝居に施された仕掛けの数々によって軽やかな喜劇味がある。その喜劇性がもたらすクールな距離感が、陰惨な歴史劇としての『リチャード三世』に俯瞰的な視点をもたらしている。

『リチャード三世』はこのカンパニーの会心の作だと私は思う。暗めの照明の下の、ほぼ素舞台のなかで、机と椅子の計算された移動と人物の早替わり(黒装束をさっと脱ぐと、鮮やかで豪華な衣裳が現れる)によって、情景がスムーズに展開していくさまは見ていて快感を覚えるし、コロスによる群唱、クラップ、控え目だがここぞというときに入るBGMのセンスのよさ、そして台詞のやりとりがもたらす豊かな音楽にも魅了される。シェイクスピア劇の原点ともいえるような形式が、現代的なかたちで見事に洗練されているように感じられる。
『ヘンリー六世第三部』も併せて上演されている。本当なら『ヘンリー六世第三部』を『リチャード三世』より早く見たかったのだけれど。こちらは22日に観に行く予定。